「砂糖入り紅茶」という発想のおぞましさ

つまりはいわゆる「三角貿易」だ。まずイギリス国内で生産した綿織物などをアフリカ西岸に運び、次にはそれらと交換した奴隷たちを労働力としてカリブ海の植民地に届ける。帰りの船に満載した砂糖やタバコといったプランテーション生産物は、国内消費分を残して再輸出する……という寸法。こうして蓄積した莫大なカネがその前提条件だったからこそ、産業革命はフランスではなくまずイギリスで起きたのだった。

<近代の世界は一つのまとまったシステム(構造体)をなしているので、歴史は「国」を単位として動くのではない。すべての国の動向は、「一体としての世界」つまり世界システムの動きの一部でしかない>

著者は広角の視線を文化にも向ける。興味を惹いたのは、イギリスに根付いた紅茶文化のくだりだ。17世紀以降、かの国には茶と砂糖がふんだんにもたらされた。地球の裏側から運ばれてくる(しかも奴隷と貧農の血と涙の結晶である)それらのほうが、自国産のビールより安上がりといわれたほどだった。いっそ茶に砂糖を入れてしまえ、となったのは、そんな環境なればこそだったという。よくよく思えば、少々品のない発想。英国紳士のやることなすことを、古来われわれはお手本にしてきたところがあるが、やたらと仰ぎ奉るのも考え物か。

イギリスばかりをやり玉にあげてしまったが、ウォーラーステインによると世界システムの「中核」を占める国々はどこも同じ穴のムジナらしい。程度の差こそあれ、「周辺」諸国をくいものにして経済的豊かさをエンジョイしている。「日本人ってすごい!」なんてはしゃいでみるのもたまにはいいけれど、一息ついたら冷静に、世界と日本の来し方を俯瞰したい。その上で、ジャパンなんてどうってことありません、みなさまのおかげですとへりくだる。傲然と自己正当化を繰り返すより、そのほうがよほど「クール」じゃないだろうか。

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