母親に美容整形クリニックへ連れて行かれた男性

韓国社会における競争の激しさは、外見に対する過剰なまでの意識「ルッキズム」をも生み出している。筆者の知人である30代前半の韓国人夫婦はともに二重まぶた手術を受けていた。夫は自分の一重まぶたを気にしていなかったが、18歳になったときに母親自らが彼を美容クリニックに連れていき、手術を受けさせた。彼らは言う。

「韓国では就職や婚活のために容姿を“改善”することが当たり前になっています。親が子どものスペックを高めるために、整形手術を勧めるのも珍しくありません」

二重まぶた切開法の施術を受けている女性
写真=iStock.com/Sergii Kolesnikov
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ちなみに、この夫は博士号をもつエリートだ。彼は性格も明るく、話もうまい。それなのに、スペックを上げるためにさらなる容姿改善が必須だというのだ。

前出のオク委員によれば、履歴書に写真の添付が求められることから、就職面接のために整形手術を受ける人もいるという。履歴書に学校名を省く「ブラインド採用」を導入する企業もあるが、「大学名を隠しても写真はまだ要求される」のが現状だ。

日本も、美容整形クリニックがティーン向けに二重まぶた手術の広告を電車内に吊るすなど、韓国ほどではないが、美容整形が正常化常態化されつつあるように見える。実際に筆者の知人の娘さんはすでに二重まぶたなのに、「高校を卒業したら、目をもっと大きな二重まぶたにする」と話していた。彼氏や親が「そんなことをしなくても」と止めていたが、言うことを聞かずにこの春休みに手術をしてしまった。

両国とも、就活や婚活で自分達の外見や学歴を「スペック」と呼ぶ点まで共通している。これは、「一発勝負社会」がさらに進んだ形であり、人々は自分の体までも競争のための「商品」として扱わざるを得なくなっている証拠ではないか。

結婚しない、セックスしない、子どもを産まない、男性と交際しない

最新の統計では、韓国の独身者の約65%日本の約46%しか結婚を希望していない。また韓国の独身者約75%、日本の独身者でも約70%に恋人がいなかった。一方で、恋愛リアリティショーは人気だ。 このような状況から、日韓の恋愛・結婚離れの一因には、人間関係を築き対立を乗り越えるコミュニケーション能力の不足がうかがえる。

韓国独特の少子化要因として、オク委員は「4Bムーブメント」を挙げる。これは韓国の若い女性たちが「結婚しない、性的関係を持たない、子どもを産まない、男性との交際をしない」という選択をするムーブメントだ。韓国語で「Bi」は「〜しない」を意味する接頭辞だ。「このムーブメントは、男女不平等に怒る女性たちが、社会から沈黙の撤退をすることを選んだという意味です」とオク委員は説明する。

韓国の少子化問題をさらに複雑にしているのが、この深刻な男女対立だ。それなのに政府はジェンダーギャップに対して積極的に改善しない。

与党に属するオク委員は、「2022年のソウル市長選挙では、20代の若い男性の約80%がPPPに投票したので、党はジェンダー問題に触れないようにしています」とその理由を明かす。

また、オク委員は、兵役制度が男女対立を助長していると言う。男性は兵役に行かなくてはいけないのに、女性が男女平等を叫ぶことに一部の若い男性が反発しているのだ。一方で、社会経済的には女性が不利な状況も明らかだ。現実には韓国の男女間賃金格差は31.2%と最悪であり、日本の21.3%を大きく上回る(OECD加盟国データ)。

このように男女それぞれの不満が社会で交錯し、対立を深めている。

「2024年の韓国議会選挙では、男女対立の新たな解決策として、女性の徴兵制を主張する野党が現れました。PPPを支持する若い男性は強く賛成しましたが、全体的には、国民のほぼ半数が反対したんです。世論が真っ二つに分かれている事実が男女分断を物語っているのでは」(オク委員)

日本でもオンラインで男女対立を目にするが、韓国ほど顕著ではない。こうして見ると、日本よりも過酷な受験戦争、男女賃金格差や男女分断が、韓国の少子化が日本よりも進んでいる要因のひとつになっているのかもしれない。