新卒一括採用のある日本、ない韓国

日韓の少子化率の差異を考える上で無視できないのが、若者の雇用状況と企業間格差の問題だ。ニッセイ基礎研究所の金明中(キム・ミョンジュン)研究員は日本の大卒者就職率は98.1%に達しているのに対し(2024年4月)、韓国の大卒者就職率は69.6%(2022年)と、約30ポイントもの開きがあることを指摘している。これは、日本にはある新卒一括採用が韓国にはないことから起こる差だという。

さらに企業規模による賃金格差も両国で異なる様相を見せている。大企業の大卒初任給は中小企業の1.52倍にも達する。一方、日本の同様の格差は1.13倍にとどまっている。

この数字が示すのは、韓国の若者がより激しい就職競争に直面しており、また「大企業に入れるか否か」で生涯賃金に大きな差が生じるという現実だ。新卒一括採用のある日本のほうが相対的に就職の安定性が高く、企業間格差も小さいことが、出生率の違いに影響しているのかもしれない。

けれども、この新卒一括採用は諸刃の剣であり、人材を固定化し流動性を阻害する「一発勝負社会」を引き起こしているのだ。

若いアジア人が面接を受けている
写真=iStock.com/koumaru
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「少額の児童手当のために子どもをもとうとは思えない」と言う韓国のシングルたち

なぜ日本の出生率は韓国より高いのか。その理由は、日本の社会がわずかながらも労働市場の安定性が高く、男女対立がやや緩和されているからかもしれない。しかし、両国とも「一発勝負社会」という共通の課題に直面している。

韓国の出生率が2024年に9年ぶりに上昇したのは、コロナ禍の影響による出産の先送りが原因と見られるが、イ市議は「若者の結婚と子供を持つことに対する見方がゆっくりと変化している」可能性も示唆する。

だが、ソウルで筆者が取材した子どものいない独身男女たちは、「無料のタクシー券や少額の児童手当がもらえるからって、子どもをもとうとは思えませんね。お金だけの話ではない。結婚も子どもも、あまりにもしんどすぎる」と口を揃えて言った。

日韓両国の少子化問題を解決するためには、政府の政策だけでなく、社会全体の改革が必要だ。皆が一斉に「よ~いドン!」と走り出すような一発勝負のライフコースではなく、寄り道や道草をしても敗者にならないような多様な生き方を社会が受け入れる時が来ている。結婚してもしなくても、子どもがいてもいなくても、誰もが自分らしく息苦しさを感じない社会――それは若者、特に女性たちの「静かな撤退」が私たちに投げかける最も重要なメッセージではないだろうか。韓国の現状は他人事ではない。日本社会も今、この問いに真摯に向き合う時である。

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