エンゲル係数は43年ぶりの高水準

今後、日本国内のCPIはどのような動きを見せるでしょうか。

先述の通りトランプ政権の影響によって、エネルギー価格は落ち着くかもしれません。そうなれば米や野菜、果物の生産コストは下がるかもしれませんが、一方で先の減反政策のツケが回り、食料品価格は高止まりする可能性があるのではないかと思うのです。

総務省が発表する家計調査によると、日本の「エンゲル係数」は43年ぶりの高水準となり、先進国の中でも最大です。エンゲル係数とは、家計の消費支出に占める食料品の割合ですが、2024年は年収1000万~1250万円世帯は25.5%、年収200万円未満の世帯は33.7%でした。ちなみに「43年ぶり」とされる1981年は約29%でしたが、その後徐々に低下し、2000年には約23%になりました。40年ほど前の1980年代から2005年にかけて少しずつ下がってきたエンゲル係数。つまり、日本人の家計にゆとりが生まれてきたということですが、2005年を境にまた上昇していき、先月公表された28.3%となりました。誰もが家計が厳しくなったと感じるのも当然です。

こうしたエンゲル係数上昇はどうして起きるのでしょうか。それは単に食料品価格の高騰だけが原因ではありません。端的に指摘されているのは、「労働の交易条件」の悪化がここ10年以上続いていることです(*2)

*2 なぜ、実質賃金が低下しているのか?:新型コロナ禍後の内外の経済環境を踏まえて

【図表】エンゲル係数の内訳の推移(1980~2017年)(二人以上の世帯)
出典=阿向 泰二郎「明治から続く統計指標:エンゲル係数」総務省統計研究研修所

労働の交易条件から見えてくること

一般的に「交易条件」は、輸出品価格と輸入品価格の比率を示す指標として使用されます。これを労働に適用した場合、賃金と物価の変化を比較することで、労働者の購買力の変化を評価することができるわけです。

ですから「労働の交易条件」を示すことで、労働の価値がどれだけの財やサービスと交換できるかを測れます。たとえば賃金が上がっても物価がもっと上がれば、実質的に買えるものは減るので、労働の交易条件は悪化。一方で、物価があまり上がらず賃金だけ上がれば、労働の交易条件は改善される。つまり、「働いて得られるお金で、どれだけのモノやサービスが手に入るか」を示す重要な経済指標が「労働の交易条件」です。そして日本は名目賃金が上がっても、それが生活費の上昇に追いついていないのが現状だということです。

こうした状況を踏まえると、今後の日本経済の鍵は「労働の交易条件」の改善にあると言えるでしょう。単なる賃上げではなく、実質的な購買力の向上につながる対価意識が求められるということです。政府は賃上げを推進する一方で、エネルギーや食料品の安定供給に向けた政策を打ち出し、家計の負担を軽減する必要があるのです。