「掘って掘って掘りまくれ」のトランプ政権

もう一つの要因である為替については、2025年3月時点で1ドル=150円を切る水準となっており、昨年夏の160円と比較すると円高傾向にあります。円高になると輸入コストが下がるため、ガス価格の影響を除けば、他の資源価格は落ち着く可能性があります。

こうした資源価格と為替の両翼に影響を及ぼすのが、時の政権です。エネルギー価格の直接要因にトランプ第2期政権の政策があるのは言うまでもありません。

具体的には2月の日米首脳会談が挙げられます。この会見でトランプ大統領は、アメリカ産LNG(液化天然ガス)の日本への輸出について言及しました。LNGはマイナス162度まで冷却して液化した天然ガスで、火力発電の主力燃料として使われています。石炭や石油に比べて燃焼時の二酸化炭素の発生量が少ないため、環境に優しいエネルギーとして期待されているものです。

そもそもトランプ大統領は、バイデン前大統領のグリーンエネルギー政策を転換し、「掘って掘って掘りまくれ」と石油や天然ガスなど化石燃料の増産を推進しています。2000年代後半のアメリカを思い出してみましょう。当時のアメリカは、シェールオイルガス革命によって積極的に掘削事業を推し進めていました。一気に供給が増えたことで、1バレル40~50ドルの水準でエネルギー価格が推移し、アメリカ中小の掘削業界が回復していきます。しかし2021年にバイデン政権がグリーンエネルギー政策を掲げてからは、掘削企業はまたしても閉鎖されていきました。それがまた今回のトランプ政権によって復活し始めているという流れです。

それでも食料品の高騰が続くのはなぜか

世界の石油会社も、トランプ政権によるグリーンエネルギー政策の放棄に反応を示しています。

その一つが、イギリスを代表する石油会社BP(旧称British Petroleum=ブリティッシュ・ペトロリアム)。2025年2月27日付の「The Economist」によると、BPは石油とガスの掘削の生産量を削減すると約束していたのに、それを撤回すると宣言しました。石油やガスに関して、どんどん立て直すと言い始めている。こうした動きによっても、先行きエネルギーの価格上昇はおさまるのではないかと考えられます。

とはいえ現状のエネルギーの価格、特にガス価格の上昇が、食料品価格の上昇に跳ね返っていることは間違いありません。特に米の高騰には、エネルギー価格の上昇だけでなく、そもそもの供給の逼迫が考えられます。

日本の農業は、生産者の平均年齢が65歳を超えており、農家の95%が赤字経営という厳しい現状があります。農業融資が十分に行き渡っていない、政府の減反政策によって生産意欲が削がれたことなどが要因として挙げられますが、こうした背景に加え、投機家が市場を動かしていることも拍車をかけていると言われています。

【図表】農林水産省統計部調査による「基幹的農業従事者数(個人経営体)と平均年齢」
出典=農業労働力に関する統計:農林水産省

私も同感です。この構図は、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した3年前と非常に似ているからです。戦争が始まったからといって急に原油の供給量が減るわけでもないのに、原油価格が一気に100ドルを超えました。それは戦争による懸念なり期待なりで、投機家が動いたから。今回の日本の米騒動も、こうした投機の動きと似たものを感じずにはいられません。