「親のため」と思って介護をすると、早々に壁にぶちあたる

【工】それに、「自分のため」と考えることは、親孝行になるんです。

【K】えっ、どういうことですか?

【工】総じて、親という存在は、子どもに「元気でいてほしい」「幸せになってほしい」と願っていると思うんです。決して「子どもが疲弊してヘトヘトになるまで自分の面倒をみてほしい」とか「子どもが経済的に困窮して、人生を犠牲にしてでも、自分の世話をしてほしい」などとは思っていないでしょう。

【K】なかには、そうではない親もいるかもしれませんが、多くはそうでしょうね。

【工】だから、子どもとしては、自分の人生を大切にすることで、自然と親孝行できているんです。老いた親の面倒をみていると、親孝行になるし、不思議と達成感もあるので、つい「親のため」と考えてしまいますが、いちばん大切なのは自分自身なんです。それを覚えておいてほしいと思います。

【K】でも、「今まで親孝行できていなかったから、最後の恩返しに親の面倒をみたい」と考える人もいると思うんです。それって、すてきな親孝行じゃないですか?

【工】もちろん、すてきですよ。わたしもメディアの取材を受けると、なぜか自分の幸せをあきらめて親の面倒を一生懸命みている人としてあつかわれたり、親思いの孝行息子として紹介されたりしがちです。

【K】そういういい話、よく目にする気がします。

【工】でも、「親のため」と思って介護をしていると、早々に壁にぶちあたります。そもそも自己犠牲的に親の面倒をみるのは間違っていて、自分の幸せをあきらめずに親の面倒をみるのが正解なんです。

【K】親の介護って、どこか自分の幸せをあきらめるものだと思っていました……。

【工】わたしは自分の幸せをまったくあきらめていないし、人生の主導権を親に渡していませんから! 自分が死ぬときに後悔したくないなら、自分の幸せと親の介護は両立させないといけないんです。

【K】ち、力強いです、くどひろさん……!

椅子に座っている高齢女性
写真=iStock.com/Hanafujikan
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自分のために親の介護を考えるという提案

【工】「親の介護は自分のため」と思うようになってからは、やらされ感はなくなりました。今も、幸せをあきらめない介護を意識しています。

【K】人生の主導権をにぎって「自分のため」と思えることって、なにごとにおいても大切ですよね。わたしは、雇用も給料も会社ににぎられている気がするな……。

【工】会社員時代のわたしも、そうでしたよ。そこに老いた親のことが加わると、さらに時間の主導権まで奪われることになります。自分を大切にできないと、親にも優しくなれないんです。

【K】自分に余裕がないと、人のことなんて考えられないですもんね。正直、老いた親について考えるなんて、気分が暗くなるし、逃げたい気持ちもありましたが、「自分のため」なら考えてもいいかなと少し思えてきました。

【工】それは、よかった! 今の自分の仕事や今後の人生を真剣に考えるために、老いた親への不安を着火剤として、うまく利用してしまいましょう。人って、お尻に火がつかないと、なかなか動かないので。

【K】そうですね。わたしも、そう遠くない未来に、役職定年や定年退職のタイミングがやってきますしね。これからの自分の人生について考える、ちょうどいいタイミングなのかもしれません。

【工】いいですね。その心意気でいきましょう。

【K】まさか、老いた親のことを考える話が、まわりまわって「自分のため」になるとは思ってもいませんでした。

【工】すべては自分のためなんです。