※本稿は、工藤広伸『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)を一部編集したものです。
親の面倒をみても感謝されないときの対処法
【遠距離介護歴12年・工藤広伸さん(以下、工)】わたしは40歳で介護離職してフリーランスになって、そこから介護に関する情報発信を11年以上続けています。その発信を通して、これまでに全国の介護者のリアルな悩みをたくさん聞いてきたのですが、そのなかには「いくら親の面倒をみても『ありがとう』のひと言もない」っていう悩みが、とても多いんです。
【介護超初心者Kさん(以下、K)】わかる気がします。
【工】そうなると、親と無駄にぶつかることになって、おたがいにどんどん疲弊していくんです。
【K】そりゃ腹も立つでしょうね……。一生懸命、親の面倒をみてあげているのに。
【工】そんなときに「親の介護は自分のため」と考えられたら、親も自分も、とてもラクになるんです。Kさんは今、「面倒をみてあげている」と言いましたが、「自分のため」と思っていたら、そこは「みている」に変わっていくはずです。
【K】あっ……。上から目線の発言になっていましたね……。
【工】いえいえ。Kさんだけでなく、そう考えている人が、ほとんどだと思います。
「親のため」と思って介護をすると、早々に壁にぶちあたる
【工】それに、「自分のため」と考えることは、親孝行になるんです。
【K】えっ、どういうことですか?
【工】総じて、親という存在は、子どもに「元気でいてほしい」「幸せになってほしい」と願っていると思うんです。決して「子どもが疲弊してヘトヘトになるまで自分の面倒をみてほしい」とか「子どもが経済的に困窮して、人生を犠牲にしてでも、自分の世話をしてほしい」などとは思っていないでしょう。
【K】なかには、そうではない親もいるかもしれませんが、多くはそうでしょうね。
【工】だから、子どもとしては、自分の人生を大切にすることで、自然と親孝行できているんです。老いた親の面倒をみていると、親孝行になるし、不思議と達成感もあるので、つい「親のため」と考えてしまいますが、いちばん大切なのは自分自身なんです。それを覚えておいてほしいと思います。
【K】でも、「今まで親孝行できていなかったから、最後の恩返しに親の面倒をみたい」と考える人もいると思うんです。それって、すてきな親孝行じゃないですか?
【工】もちろん、すてきですよ。わたしもメディアの取材を受けると、なぜか自分の幸せをあきらめて親の面倒を一生懸命みている人としてあつかわれたり、親思いの孝行息子として紹介されたりしがちです。
【K】そういういい話、よく目にする気がします。
【工】でも、「親のため」と思って介護をしていると、早々に壁にぶちあたります。そもそも自己犠牲的に親の面倒をみるのは間違っていて、自分の幸せをあきらめずに親の面倒をみるのが正解なんです。
【K】親の介護って、どこか自分の幸せをあきらめるものだと思っていました……。
【工】わたしは自分の幸せをまったくあきらめていないし、人生の主導権を親に渡していませんから! 自分が死ぬときに後悔したくないなら、自分の幸せと親の介護は両立させないといけないんです。
【K】ち、力強いです、くどひろさん……!
自分のために親の介護を考えるという提案
【工】「親の介護は自分のため」と思うようになってからは、やらされ感はなくなりました。今も、幸せをあきらめない介護を意識しています。
【K】人生の主導権をにぎって「自分のため」と思えることって、なにごとにおいても大切ですよね。わたしは、雇用も給料も会社ににぎられている気がするな……。
【工】会社員時代のわたしも、そうでしたよ。そこに老いた親のことが加わると、さらに時間の主導権まで奪われることになります。自分を大切にできないと、親にも優しくなれないんです。
【K】自分に余裕がないと、人のことなんて考えられないですもんね。正直、老いた親について考えるなんて、気分が暗くなるし、逃げたい気持ちもありましたが、「自分のため」なら考えてもいいかなと少し思えてきました。
【工】それは、よかった! 今の自分の仕事や今後の人生を真剣に考えるために、老いた親への不安を着火剤として、うまく利用してしまいましょう。人って、お尻に火がつかないと、なかなか動かないので。
【K】そうですね。わたしも、そう遠くない未来に、役職定年や定年退職のタイミングがやってきますしね。これからの自分の人生について考える、ちょうどいいタイミングなのかもしれません。
【工】いいですね。その心意気でいきましょう。
【K】まさか、老いた親のことを考える話が、まわりまわって「自分のため」になるとは思ってもいませんでした。
【工】すべては自分のためなんです。
「親の介護をしている」と、なぜ人に言えないのか?
【工】さっきKさんに、40歳のときに介護離職したとお伝えしましたが、実はそれより前の34歳のときにも介護離職を経験しているんです。
【K】えっ、2回もですか⁉ しかも34歳……。かなり早いですね。
【工】そのときは、父が脳梗塞で倒れたことがきっかけでした。当時、わたしは東京の会社に勤めていて、あわてて岩手の病院にかけつけたら、父の呂律がまったくまわっていなくてびっくりしました。
【K】それはあせりますね……。そのとき、お父さんは60代ですか?
【工】65歳でしたね。それで筆談で会話しようと思ったら、今度は手がブルブル震えて文字がまったく書けなくて……。そんな父の姿を見たとき、「ああ、これからずっと父の面倒をみないといけない。自分の人生は終わった……」と思いましたね。
【K】30代半ばですもんね……。
【工】同僚にも、友達にも、親の介護をしている同世代はまわりにまったくいなくて、だれにも相談せずに会社を辞めました。
【K】会社にはなんと言って辞めたんですか?
【工】「やりたいことがある」って。実際は、なんのあてもない無職です。
【K】最近は、だいぶ変わってきましたが、介護のことって、まだまだ自分からは話しにくい雰囲気がありますもんね……。
【工】そうですね。会社に父のことを伝えて仕事を続けたとしても、人事評価が悪くなったり、職場に迷惑をかけたり、大きな仕事から外されたり、キャリアアップしていく同僚の姿を横目で見たりするのかな……と。そんなことを考えると、介護と仕事の両立なんて、はじめから無理だと思いましたね。
【K】気力も体力も充実している30代で、それはきついですね……。
1人で悩みを抱えこむ「サイレントケアラー」
【K】そうそう、パートナーである奥さまは、仕事を辞めることに反対しなかったんですか?
【工】そこは、なんとか……(汗)。事前に何度も、わたしが仕事を辞めても妻の生活に変わりはないと伝えていたからだと思います。生活費は、自分の貯金をとりくずして家に入れていました。再就職するまでは、冷や汗をかきっぱなしでしたね……。
【K】それは、かなりのプレッシャーですね……。そういえば、わたしの会社の先輩にも親の介護をしている人がいますが、親の介護のことについて、わたし以外の同僚には、まったく話をしていないみたいです。
【工】わたしは、そういう人のことを「サイレントケアラー」と呼んでいます。直訳すると「物言わぬ介護者」ですね。わたしの造語ですが、世の中には、だれにも言わずに介護している人がたくさんいますよ。
【K】でも、たしか、介護の休みの制度や法律がありましたよね? それを使えば、隠すことはないと思うんですけど……。
【工】「育児・介護休業法」には、介護を理由に解雇したり、評価を下げたり、不利益な配置転換をしたりしてはいけないとあります。少しずつ知られてきましたが「自分だけでなんとかしよう」と考える人が、いまだに多いんです。
【K】働く人にとっては、自分の仕事を失うことにもなりかねませんからね……。そうなると、今後の人生や老後の計画もめちゃくちゃだ。
【工】だからこそ、特に働く人が、老いた親について早めに考えておくことは、自分を助けることにつながるので、とても大切なんです。(以下、後編へ続く)
