店頭で実際に持った感覚を確かめるのが大切
本格的な料理はこれからで、自分のポテンシャルがわからない人は、まずニトリなどでリーズナブルな鍋を選ぶのもよい。「重ねて収納できる3点セットの鍋を1組買っておけば、ある程度の料理はできます。重ね過ぎると使わなくなるので、2~3個ぐらいにとどめましょう。サイズ感もよく考えられていると思います」と話す野口さん。一方、イケアは「日本人の調理スタイルに合いにくいかもしれません。例えば、フライパン。ヨーロッパの方は焼く作業が多く、フライパンは浅めなものが主流です。逆に日本人の料理は多種多彩で、焼くほか、炒める、煮るなどにも使うため、少し深めのフライパンの方が適しています」と話す。逆に、ヨーロッパ人のように料理するならイケアでもよいと言えそうだ。

さらに、フライパン選びの記事でも書いたが、鍋もまずは店頭で実際に持った感覚を確かめることが大切だ。通販サイトでは、鍋のサイズや重さが正確に記されてはいるが、自分で持った感覚を数字からイメージできる人は少ない。経験者なら、自分がふだん使う鍋のサイズを測ったうえで、店頭に行って検討したい。売り場のヘラやお玉を借り、調理しているつもりで動かしてみることもおすすめ。それでも迷うなら、売り場の人に相談しよう。相談ができるのも、リアル店舗のよさである。
道具で料理の負担は大きく変わる
調理道具は、台所の担い手の大事な相棒だ。憧れの料理家や料理人が使っている、あるいはすすめているからといって、自分に合うとは限らない。自分の調理スタイルや家族構成、食べ方などをよく考え、選ぶことが必要だ。自身の研究と実践に基づいた、野口さんの「重ね過ぎると鍋は意外と使わない」「どんなに素敵な鍋でも、重いと人は無意識に避けます。『今日は疲れちゃって』というときは、ストウブでなくてフライパンを使ったりするんです」という発言はリアルで重みがあった。道具で料理の負担は、大きく変わる。より楽しく料理し、おいしく作るためにも道具選びはよく考えよう。
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。