「盗撮よりも不倫が許せない」

A子さんが見たという盗撮の画像は、電車やエスカレーターなどで不特定多数の女性の後ろ姿やスカートの中を撮影したもので、フォルダの中に数百枚保存されていました。

相手に見つかって駅員などに突き出されてA子さんが謝りに行ったり、示談したりしたことが何度もあり、逮捕されたこともあるそうです。夫は盗撮癖を認めていて、警察沙汰になるたびに、「ついやってしまう」「もうやらない」と泣きながら言うそうです。

一般的に、犯罪を繰り返している場合は、法律上の離婚理由として認められる可能性が高いです。つまり、これまでの犯罪歴やその内容について立証できれば、離婚原因を証明することができ、それに加えて不倫の証拠を取得しなくても離婚が可能です。

そのように説明しましたが、A子さんはあまりピンと来ていないようで、「盗撮は私にとってどうでもいいことなんです。夫が不倫していることが許せません」とおっしゃいました。

繁華街に停車中のパトカー
写真=iStock.com/Marco_Piunti
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盗撮癖をメインの理由として離婚協議

その後もしばらく説明を行って、A子さんとの間で、盗撮癖をメインの理由にして離婚協議をするという方針が決まりました。

夫に連絡を取り、離婚協議を始めました。度重なる盗撮による警察沙汰で夫婦関係が破綻していると伝えると、夫は特に抵抗することもなく、すんなり離婚に応じました。

こうしてA子さんは離婚することができました。

この事例を読んで、皆さんはどう思うでしょうか。A子さんは感覚が麻痺していると思う人もいれば、やはり盗撮より不倫の方が許せないと思う人もいるかもしれません。

弁護士の視点からすると、配偶者の犯罪や暴力は、「婚姻を継続しがたい重大な理由」として破綻が認められやすいものです。

しかし実際に、離婚と言えば不倫、不倫と言えば証拠という固定観念があり、それに固執して方針を考えてしまう人が少なくないのです。ドラマや、芸能人のスキャンダルなどのイメージが強いのかもしれません。

そういった人は、A子さんのように、最初は不倫やモラハラの離婚相談に来て、話を聞いていくうちに、相手がひどい人だというエピソードの一つとしてようやく、「たびたび逮捕されている」といった話が出てきます。

一例として盗撮を挙げましたが、配偶者が痴漢や窃盗で何度も逮捕されたり示談したりしている場合であっても、A子さんと同じように、不倫の証拠がないと離婚できないと考える人もいます。