30代で脱サラ、50代までは裕福な暮らしを満喫していたが…

ケース1は、時代の流れを読み損なったAさんの話です。

30代で脱サラし、ギフト商品を商う仕事を始めました。

会社組織にして社員もいました。最初の頃は業績も良く、仕入れのために海外出張へ飛び回ったり、ベンツを乗り回したりしていました。奥様は趣味の教室を開いていて、子どもがいないこともあって、お金廻りは結構裕福な印象でした。

会社の業績に陰りが出てきたのは社長が60歳を超えたころから。扱っていた商品が徐々に売れなくなってきました。

商品が売れなくなった原因の一つは「目利きのある顧客が少なくなった」こと。少し価格が高くても、商品を見る目のある人が顧客の中心でした。

しかし、ニトリやIKEAなどの台頭で、同じような品が安く手に入るようになると、消費者は価格が安い方に流れてしまいました。消費性向が時代によって変化することに、この会社の社長は気がつかなかったのですね。価格以上の価値を感じさせる、商品の魅力を打ち出せなかったことも原因でしょう。

また、業績が良かったころは世間でよくあるように「税金を払いたくないから」と、毎年経費をバンバン使って大した利益を出さないようにしてきました。

借入金が億単位に……自己破産する費用もなくなった

商品の売り上げが低迷してからも、やり方を変えられず、経費を抑えなかったため、金融機関からの借入金が増えていきました。在庫も多く余るようになりました。そのうちに借入金で仕入れた商品が売れないからと、価格を下げて叩き売りをし、評価損を出すようになりました。

金融機関からの借り入れが年々増え、結局、業績悪化してから10年、借入金は億単位に。とうとう社長はやる気を失ってしまいました。気が付けば74歳。自己破産する費用もなくなり、ひっそりこっそり生きていくことにしました。

ちなみに自己破産するにも裁判所や弁護士にかかる費用で100万円ほどかかるといわれています。確かに、これだけのお金をかけて自己破産しても、担保に入れている自宅は取られてしまいますし、以後10年はクレジットカードも使えませんし、会社の役員になることもできません。74歳から10年といえば84歳です。はっきり言って人生の再起は難しいと言わざるを得ません。

といっても、融資はチャラにはできません。家も競売にかけられますし、一生にわたって信用保証協会に少しずつ返済して、彼と奥さんは年金の範囲で細々と生活することになりました。

通帳を見ている夫婦
写真=iStock.com/itakayuki
高収入な時代の浪費のしわ寄せが老後に……(※写真はイメージです)