大脳からの警告を遮断する集中メソッド
オードリーがポモドーロ・テクニックと併用しているのが、こなすべきタスクの重要度と緊急度を整理して管理する「GTD(Getting Things Done)メソッド」という手法だ。
GTDは、役員や管理職向けのコーチングを専門とするデビッド・アレンが2001年に『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』(二見書房)で提唱したものだ。多くの人々の経験と認知科学研究に基づくデータ検証結果から、シンプルで実用的な行動管理メソッドを生み出した。
この手法が生まれた背景には、頭のなかにつねにいくつものタスクを抱えているという現代人の事情がある。仕事をしている最中にも、次にやるべきことが割り込んできて集中力を奪っていく。GTDメソッドに従いタスクをすべて書き出すことで、大脳から「あのタスクが終わっていない」という警告が鳴り止み、集中して今の仕事を終えられるようになる。
オードリーの時間管理術は、簡単に言うとポモドーロ・テクニックとGTDメソッドからなっている。GTDでは特に二つのステップを重視する。一つは「把握」のステップ。新しいタスクが入ってきたら頭のなかに留めておかず、紙に書き出す。
もう一つは「整理」のステップ。やるべきことを定期的に整理する。重要度と緊急度によってやるべきことを分類してから、ポモドーロ・テクニックを使い、集中して処理することで効率的な仕事のリズムが作れる。
自分になじむ最適な方法を見つけて
朝9時から夕方5時まで働くというオードリーの1日は、一見すると普通の人と同じように思える。しかし、ポモドーロ・テクニックや食材デリバリーの利用といった行動から、時間の枠組みを再構築して時間の主導権を握っていることがわかる。この考え方は衣食住を問わず、彼女が生活のなかで最も重要視しているものだ。
人の習慣はそれぞれ違う。チャンネルの切り替えがうまく、一度にたくさんのことができる人もいて、それ自体は決して悪いことではない。ただ、オードリー自身はそういうタイプではない。「傾聴」「学習」「理解」「反応」の四つの段階を切り替えるのに一定の時間がかかる。
新しい刺激に出会うと感情が動かされる。だから自分に一定の時間を与え、感情を落ち着かせてから改めて処理することにしている。
人は自分を正しく知るべきだとオードリーは考える。特に、大人は自分の認知モデルをある程度、理解しておく必要がある。自分の感情・認識・注意力のバランスを把握し、自分にもっともなじむ方法を見つけ出す。一度に一つのことしか処理できないなら、一つをやり終えてから別の作業に移る。
今は便利で使いやすいツールがたくさんあるから、それらを利用して時間配分を決め、一つひとつの仕事を着実に終わらせる。主体的に時間の枠組みを把握し、自分に最適なペースに組み直すことで、集中していくつもの仕事を終わらせることができる。これが効率的に仕事をこなす秘訣だ。
1981年台湾台北市生まれ。幼い頃からコンピュータに興味を示し、12歳でPerlを学び始める。15歳で中学校を中退、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。2005年、トランスジェンダーであることを公表し、女性への性別移行を始める(現在は「無性別」)。米アップルのデジタル顧問などを経て、2016年10月より史上最年少で台湾行政院に入閣、無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。