栄養価が高いのは「農薬あり」か「農薬なし」か

栄養価についても研究が行われていますが、有機農産物のほうが栄養価が高い、という論文と、農薬等を用いる「慣行農業」による農産物と変わらない、という論文の両方があり、確定的な判断はできない状態です。

「安全安心のためオーガニック給食を増やそう」という運動もありますが、科学的には有機農業・有機農産物は安全性とは関係がないのです。

では、なんのために有機農業はあるのか?

国際的には、有機農業の「生物多様性や生物、土壌などによる循環系を守る」という理念が重視されています。ただし、生産性の低さを問題視する意見も出ています。

化学合成農薬などを用いないので、どうしても単位面積あたりの収量は低くなりがち。有機農業で食料を十分に供給するには農地を増やさざるを得ません。森林開発などを進めるとかえって地球全体の自然環境のバランスを崩すのではないか、と考えられ、学術論文も出ています。

ともあれ、有機農業は欧米では拡大しており、世界の農地の約2%で有機農業が行われています(2022年)。日本での取り組み面積は農地全体の0.7%(2022年度)。10年前は0.5%なので、少し増えました。

有機JAS認証を受けた生産者が作った農産物の割合は野菜で総生産量の0.39%、米で0.12%(図表1)です。

有機農業の本当の価値

私が気になるのは、有機農家の中に「農薬はこんなに危ないから、有機農業は価値がある」という言い方をする人が少なくない、という現象です。

多くの人が「昔、農薬を散布していたら気分が悪くなった」と体験談を語ります。しかし、化学合成農薬の安全性評価は年々厳しくなっています。昔と今では使われる農薬の種類や量がかなり変わってきているのですが、そうした変化は無視されています。

日本は高温多湿で病害虫の被害を受けやすい国です。稲を襲うウンカが中国大陸から偏西風に乗って飛んでくるなど、地理的条件もよくありません。有機農業は、労働量も多くなりがちで、高齢化が急速に進んでいる日本の農業において急拡大を目指すのは難しいでしょう。

有機農業か慣行農業かという二分法で判断するのは不毛ではないでしょうか。有機農業に適した土地柄、作物では有機農業をして特徴のある農産物として売ればよいし、一方で、化学合成農薬や化学肥料等もうまく利用し、妥当な価格で安定供給を目指す農家もいてよいはず、と私は思います。

有機農業では、その土地に古くからある「在来種」がよく栽培されています。収量が低いものが多く、価格競争が激しい慣行農業ではもうあまり、栽培されません。しかし、万人向けではないが特徴のあるおいしい味を持つ、という在来種も多いものです。そんな味を追い求めて、少々高い有機農産物を買う、というのもよいでしょう。

また、有機農業をする農家の多くは、消費者との直接のつながりを大事にし、産地直送、いわゆる「産直」をアピールして、交流イベントを開催したりします。それも、有機農業の魅力につながっています。