“怖がらせる存在”になるということ

だからでしょうか、教習所に通っている時の私は、歩道でつちかった「被害者になりやすい側としての意識」が抜けず、車で車道を走っていても常にビクビクしていました。

視界の中に自転車や歩行者の動きが少し入っただけで、ビクッ!となってブレーキを軽く踏んでしまう、というのも1~2回やってしまいました。例えば横断歩道で青になるのを待っている人がちょっと前のほうに移動する、とかです。車からかなり離れているし、そんなところでブレーキを踏むほうが危ない、と教官から注意されました。

車に乗っている状態で周りの車にビクビクしていると、車が不可解な動きになるので、逆に周りの車をビビらせることになる、「あなたは怖がってるけど、後ろの車はあなたに怖がってるんだよ」ということを叩き込まれました。

そうなのか、なるほど、車に乗った私は、歩行者だけではなく周りの車からも怖がられる存在なのだ。そう理解しても、どうしてもこわい。ぶつかってしまう、というより、ぶつかってこられるのでは、という種類の恐怖が抜けませんでした。ブレーキを踏みたくなる瞬間に「踏まない! 大丈夫! ぶつからないから!」と心の中で自分に言い聞かせて耐えまくりました。

「前かがみの姿勢」から「正しい姿勢」へ

たまに、腕を曲げてハンドルに胸をくっつけるような姿勢で前かがみになって運転している人を見かけることがあります。それはたいだいおばさん、中高年の女性である、という印象がありました。他の属性にもいるのかもしれないけど、特に中高年のおじさんでそういう姿勢で運転している人はあまり見たことがない。

私もどうしてもその前かがみ姿勢になってしまい、何度も教官から注意されました。「逆に危ないからやめなさい」と。だけどどうしても近距離のもの、つまり「目の前に突っ込んできそうなもの」が気になって仕方ないのです。

正しい運転の姿勢は、腕をある程度伸ばし、背もたれに背をつけて全身をゆったりと構え、フロントガラスの全体を視界に入れつつ、視点は目的地の方向に向ける。

こわくて前かがみになりたいのを堪えて、その通りの姿勢になって運転してみた時のことです。「あっ!」と思いました。

これは、男性の動作である、と思いました。男性の視界、男性の世界の見方。