わざと「後味の悪い結末」にする
いずれにしても、「正義はひとつではない」という前提によって、『相棒』の世界においては正義と悪のあいだに明確な線引きをすることがそもそも構造的に難しくなっている。
したがって、『相棒』では、ある事件の犯人は捕まってもその裏にある別の犯罪については手つかずといったようなすっきりしない、後味の悪い終わりかたが少なくない。
だがそれが独特の余韻を残すことも確かで、その点“社会派エンタメ”という刑事ドラマの本質がこれほどよく表現されたドラマもあまりないだろう。
その意味で『相棒』は、刑事ドラマの本質を踏まえたうえでの、その歴史的総合と呼べるような作品だ。そこには、時に相反する要素が共存するがゆえの不安定さもある。しかし、そんな矛盾を無理に丸め込むのではなく、そのまま多面性として提示するところにこのドラマの得難い魅力、奥行きの深さがある。
2000年前後に増えたあるジャンル
2000年前後には、『相棒』のように刑事ドラマ史における最も重要な節目になった作品が登場する一方で、刑事ドラマ的なフォーマットのなかで刑事とは違う職業の人びとが活躍するドラマ、いわば“刑事以外が主役の刑事ドラマ”が盛んに制作されて人気を博すようになった。
似たような意味では、監察医や弁護士などが活躍するドラマはすでにそれ以前からあったし、この系譜からは松本潤主演の『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系、2016年放送開始)のように近年も人気作品が生まれている。ただ2000年前後を境に活躍する職種が増え、ますます多彩になったという見方ができるだろう。
さらに言うなら、特に1980年代以降2時間ドラマが量産されたなかで多種多様な設定の作品が制作されてきた蓄積も大切な土台になっていたはずだ。
いまや連続ドラマとしては最長寿シリーズとなった『科捜研の女』(テレビ朝日系、1999年放送開始)は、そうした“刑事以外が主役の刑事ドラマ”のひとつだ。