人生はこうして変えられる

【編集部】課題の分離ができても、理想に向かって一歩踏み出すのは簡単ではありませんよね。

【小川】アドラーいわく、課題を克服するのに必要なのは「勇気」です。そして勇気を得る方法は「自分の世界の見方(=意味づけ)を変えること」だと言います。

世界とは私たちが生きる環境のことで、それぞれの経験や選択の結果からできています。つまり、人によって世界の意味づけは異なるわけです。逆に言えば、「人間は自分自身で人生を意味づけ変えていくことができる」――この考え方こそが、アドラー哲学の根幹なのです。さらにアドラーは、他者から勇気をもらうこともできると言います。ここで大事なのは、人の役に立ち感謝されたことに目を向けること。それをもとに自分を肯定し、自信と勇気に変えていくのです。

勇気を持って失敗してほしい

【編集部】過去の失敗やトラウマが大きいと、劣等感から抜け出すのは難しそうです。

さわぐちけいすけ・小川仁志『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)
さわぐちけいすけ・小川仁志『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)

【小川】トラウマはできなかったことに目を向けること。でも、過去の事実や失敗は変わりませんが、その意味は自ら変えられる。失敗をトラウマと捉えるか、「あのおかげで今の自分がある」と捉えるかでは全く違う。ちなみに、私が自信満々に見えるのは人生で失敗ばかりしているからです(笑)。困難に挑戦して初めて成功体験が得られ、成長にもつながります。

逆に言えば自信がない人に限って失敗を恐れて挑戦しない。若者や自信のない人ほど、勇気を持って失敗してほしいと思います。

【編集部】今、自己肯定感が低い人が多いといいます。

【小川】そうなんです。私はよく講演を頼まれるのですが、小学校では子どもたちの自己肯定感が低いからそれをテーマにしてほしいといわれます。また企業でも社員の自己肯定感が低いからそれをテーマにといわれるのです。どうやら今、子どもから大人までみんなが自己肯定感の低さに悩んでいるように見えます。これは失敗に厳しい社会の裏返しともいえるでしょう。ぜひその風潮を変えていく必要がありますね。日本の経済成長の低迷も、このことと無関係ではないような気がします。

さわぐち けいすけ(さわぐち・けいすけ)
漫画家

2017年から漫画家として活動。社会に生きる人々の心境を描く書籍制作の依頼を手掛け、SNSの中ではPR漫画やオリジナル漫画などを制作し投稿。Xフォロワー19万人。主な著書に『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)、『偶発的ルネッサンス少女』(朝日新聞出版)、『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)、『だからお前はダメなんだ』(大和書房)、『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)など。

小川 仁志(おがわ・ひとし)
山口大学国際総合科学部教授

京都府生まれ。京都大学法学部卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。伊藤忠商事勤務、フリーターの経歴を持つ。市民のための「哲学カフェ」を主宰。