羽鳥がスズ子をしごく場面は『セッション』オマージュだった
【佐藤】その違いが如実に出ていたのが、淡谷のり子をモデルにした茨田りつ子(菊地凛子)でしたね。二回目は、りつ子のツンデレ的な優しさがより深く感じられました。一方で、草彅さんはブレていない。半年近く経っているのに「トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ」と言うときの感じが変わらないし、すごいなと思いました。
【足立】僕はアメリカ映画の『セッション』(2014年、デイミアン・チャゼル監督作)が好きなんですけれど、J・K・シモンズが演じた怖い音楽の先生。あれはちょっとモノマネしたくなるから、このドラマでもそういう面白さを出したかったんですよね。モノマネしたくなるものって素晴らしいものだと思うので。それで「怖くない『セッション』をやろう」と思って、スズ子と羽鳥が初めて組んだ「ラッパと娘」の稽古シーンを書きました。だから、羽鳥がスズ子のことをしごきまくるんです。
【佐藤】その場面、スズ子は羽鳥に「もう一回、もう一回」とダメ出しされ、戸惑っている感じでしたが、羽鳥は絶対にブレない。自分の思う音になるまでは何度でもやるという姿を見て、まさに音楽伝記ドラマだなと思ったんですよ。常軌を逸している状態だけれど、それでいい曲が生まれたから、みんな、納得してしまう、というような。
【足立】まさにそうですね。
「東京ブギウギ」の歌詞「ズキズキ」に込められた深い意味
【佐藤】「ブギウギ」は歌唱シーンもよかったですね。「ラッパと娘」にしても「東京ブギウギ」にしても、15分間しかない朝ドラの中で歌をノーカット、フルコーラスで見せるという。
【足立】でも、15分のうちの3分を持ってかれるので、物語をどうするかということは悩みましたね。どうしても薄くなっちゃわないかなと思って。歌唱シーンで盛り上がるためには、そこに至るまでのドラマはしっかりしてないといけないと思うので、そこは本当に、一番苦労したところかもしれません。
【佐藤】そこまでの人間ドラマがちゃんと歌でオチがつくようになっていましたよね。例えば「東京ブギウギ」の「ズキズキワクワク」というのはどういうことなのか。「ドキドキ」じゃない「ズキズキ」なわけで。
【足立】たしかに、ワクワクドキドキならよくわかるけれど、ズキズキってなんだろうと思いました。