羽鳥のカウントはなぜ「トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ」になったのか

【佐藤】そういう昭和のホームドラマ的世界観がすごく出ていましたし、オタクという言葉がない時代だけれど、羽鳥善一はちょっとオタク的で、僕たちからしてもすごく共感できる人だなと。妻や家族を前にしても、自分の仕事のことばかりを語りたくて、意識がどこか行ってしまっている感じがして「あるある」でした(笑)。

【足立】その点も、やっぱり草彅さんのお芝居が面白かったですよね。僕は前に脚本を担当した「拾われた男」(俳優・松尾諭の自伝的ドラマ)でも草彅さんとご一緒して……と言っても一度もお会いしたことはないんですが、そのときのお芝居のイメージがあって、「草彅さんならこんなふうに演じてくれるんじゃないかな」と思いました。羽鳥善一の「トゥリー(スリー)、トゥー、ワン、ゼロ」という決めぜりふは、僕の思いつきなんですが、「変えてほしくない」とリクエストしました。そんなことをお願いしたのは唯一、それだけなんです。

「東京ブギウギ」お披露目場面は撮り直して後半にも

【佐藤】第1話の冒頭で「東京ブギウギ」のお披露目をする時ですね、最初に「トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ」が出てきたのは。本当は音楽のカウントとしてはおかしいんですよね。普通は「スリー、トゥー、ワン」で「はい演奏して、歌って」ということになる。

娯楽映画研究家の佐藤利明さん
娯楽映画研究家の佐藤利明さん(写真=本人提供)

【足立】そうなんです。でも、その変則的な感じを、草彅さんが僕のイメージどおりに見事に演じてくれました。最初に台本を出したときは、やっぱり音楽家なのに変だという意見もあり、そこで服部隆之さんにおうかがいを立てたら、「面白いじゃない」と軽くOKしてくださって。そのあたりがやっぱり服部家の血なのかなみたいな感じで(笑)。

【佐藤】最初にその強烈なインパクトがあって、だんだん僕たちも受け入れて面白がれるようになりました。その後、いろいろあって、スズ子が子どもを産んでから、また同じ「東京ブギウギ」のお披露目のシーンに戻るのもよかったですね。わざわざもう一度撮り直をして、出てくる赤ちゃんも別の子になっていました。

【足立】やっぱり、第1週第1話はかなり早い段階で撮影したので、実際に趣里さんがスズ子の人生をかなり長い時間生きた上で、同じシーンを撮り直しできたのはよかったですね。二回目はキャストの皆さんの気持ちもだいぶ役に入り込んでいた。その違いも見比べてもらうと、面白いかもしれません。