何度トライしてもお酒がやめられないのはなぜなのか。臨床心理学者のソフィー・モートさんは「飲酒のきっかけがストレスだけではない。ストレス、仕事が完了したこと、仲間と会ったこと、いつもの帰り道、キッチン、ディナーテーブル――すべてが飲みたい気分にさせる。問題は環境にある」という――。(第1回/全4回)

※本稿は、ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

依存症ではないのにお酒がどうしてもやめられない

「前回お話ししたときは言わなかったのですが、もう長い間、お酒をやめようとしては挫折しています。アルコール依存症だとは思わないので、やめられるはずなのですが、飲み続けています。お酒を飲み始めた理由はわかっています。これまでに何度も先生と話した人生の出来事に対処するためでした。

でも、ああいった経験のつらさはもう乗り越えたつもりなので、それが飲酒を続けている理由ではありません。私の場合、ストレスが飲酒のきっかけになるという自覚があるので、呼吸のエクササイズや私によく効く対処法を使って日々のストレスを解消しようとしていますが、お話しした通り、やはり飲み続けています。幸い、お酒をやめようとしていることは誰にも話していませんが、もし知られたら、情けない人間だとバレてしまいますね。私はどうすればいいのでしょうか?」

――セラピーの再開を望む、元患者のサム(30歳)からのメール

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写真=iStock.com/triocean
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絶えず自分を痛めつけてしまう

サムは、ロンドン在住のテクノロジー企業の創設者だ。これまでに達成したことを箇条書きすれば、あなたも「素晴らしい!」と目を見張るだろう。

実際、多くの人が彼女に会った瞬間に、そう口にする。ある人は畏れ多い気持ちから、別の人は功績をうらやみながら。そんなふうに思われるのが、サムは惨めでならない。人からほめられるたびに、世間に見せている姿と、内心感じていることのギャップがふくらむばかりだからだ。「心の中はめちゃくちゃ」そうサムは感じている。

サムはこれまでに、何人ものセラピストに会った。一人目は不安を静めたくて、二人目は大きな破局のあとに。そして三人目は、二人目のセラピストが気に入らなくて、心の痛みに対処しようと別の人を求めた。その後、29歳のとき、気分が落ち込んで私のところへやってきた。

サムはそれまでのセラピー歴を「自分を一生懸命ケアして、人生の困難を乗り越えられた証し」だと言ったり、「私が壊れている証し」だと話したりした。

彼女はよくこれをやっていた。自分に自信を持ったかと思うと、激しくむち打つのだ。そこで私たちは、サムの意欲的なところと自分を責め立てるところ、その両方について時間をかけて話し合った。わかったことは、彼女が絶えず自分を痛めつける原因が、いくぶん生育環境にあること。そして、その生育環境が、仕事の成功も後押ししてきたことだ。