問題は環境を変えなかったこと

多くの人と同じように、サムも気づいていなかった。習慣的な行動は、環境からの視覚的なきっかけや内的なきっかけ(身体感覚や経験)によって、自動的に引き起こされる。

ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)
ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)

サムが知らなかったのは、飲酒のきっかけがストレスだけではないことだ。きっかけは、ありとあらゆる場面に転がっている。ストレス、仕事が完了したこと、仲間と会ったこと、いつもの帰り道、キッチン、ディナーテーブル――すべてが飲みたい気分にさせる。そして、たいていの場合、欲求が勝利をおさめる。

サムの飲酒には、まだ自覚していない、深い心理的な原因などなかった。本人が主張する「意志が弱いせいだ」というもう一つの説も、間違っていた。問題は、サムが環境を変えなかったことだ。サムは、カジノに腰を下ろしながら悪い習慣を蹴散らそうとしているギャンブラーのようなもの。

サムと私が最初に取り組んだのは、意志の力と習慣形成の科学について学ぶことだった。では、一緒にこの科学をマスターしよう。そうすれば、サムが陥ったわなを回避できる。

ソフィー・モート(Sophie Mort)
臨床心理学者

心理学学士号、神経科学修士号、臨床心理学博士号を取得。Instagramやブログ、オンライン診療を通じて情動的幸福を提供するセラピーの普及に努めている。5000人以上のメンタルヘルスを支援してきた。マインドフルネスアプリ“Happy Not Perfect” を開発し、“Vice Magazine” “Girlboss” “Psych Central” “Teen Vogue” など世界的なメディアで取り上げられる。デビュー作となった“A Manual for Being Human” は、イギリスでSUNDAY TIMES BESTSELLERとなり世界10カ国に翻訳されベストセラーに。

長澤 あかね(ながさわ・あかね)
翻訳家

奈良県生まれ。横浜在住。関西学院大学社会学部卒業。広告代理店に勤務したのち、通訳を経て翻訳者に。訳書にエイミー・モーリン著『メンタルが強い人がやめた13の習慣』(講談社)、キャンディス・ブシュネル著『25年後のセックス・アンド・ザ・シティ』(大和書房)、『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』(PHP研究所)などがある。