黄色のチョッキを着た男性2人が駅前通路をパトロールしている。都の仕事だろうか。都庁下は「第三建設」が管理していたが、台東区は「第六建設」が管理している。隅田川(墨田区)で荷物を盗まれたときは、バックパックに「第五建設」と書かれた撤去要請のシールが貼ってあった。
寅さんが男性2人組を引き留め、地べたに膝を立てて聞く。
「すみませんが、その仕事はどこで見つけたんだい?」
「ハローワークにも求人広告にも載っているので誰でも応募できますよ。ご興味があるんですか?」
2人組の1人が戸惑いながら答えた。
「うん。俺その仕事やりたいだよ」
2人組がいなくなると寅さんは痛む腰をかばいながらやっとの思いで涅槃の格好に戻った。私はといえば、身体がまだピンピンしているにも関わらず「まだ仕事はしたくない」と言い逃れるしかない。「実は取材で」とは言えないことが辛くなってきた。
「お前さんは何が気に入らないんだい。あれも嫌これも嫌じゃダメなんだよ。仕事を選んでいる場合じゃないだろう。飯場が嫌なら場所を教えてやるから、漫画喫“ちゃ”に行って今すぐ面接してこいって。説教しているわけじゃない、お前さんのためを思って言っているんだからな」
「きっと騙されてるんじゃねえか?」
次の日の夜、駅前通路に行くと寅さんの姿はなかった。
この通路には一人、中東系の顔をした外国人が寝泊まりしている。今日もいたので拙い英語で話を聞くことにした。ネパール人のシバは35歳。押上のカレー屋でコックをしていたが、コロナ禍でクビになり3カ月前からこの場所に寝ている。
ネパールに妻がいて2カ月後には子どもが生まれるという。ビザもあと2年残っているので国にはまだ帰りたくないとのことだ。「大船で友だちがカレー屋をやっているからそこに行けば働ける」とシバは言うが、財布を落として大船まで行く交通費すらないそうだ。
私は「これで大船まで行って、もしダメだったらまた上野に戻ってくればいい」と3000円をシバに貸した。
いろいろ疑問に思うことはあったが嘘なら嘘で構わない。
シバと話しているとトコトコと寅さんが歩いてきて、下に何も敷かずに涅槃の形になった。自立支援センターはどうしたのだろうか。
「お前さん、その外人に何をあげたんだよ」
私は一連の事情を寅さんに説明した。
「いくらなんでも人が良すぎるだろうよ。きっと騙されてるんじゃねえか? そいつに3000円よこすなら俺にも1000円ばかりくれてもいいじゃねえか」
「嘘なら嘘でいいんですよ。でも仮に本当だったらどうするんですか」