駅前通路の隅で一人の男が暴れ回っている。先日私にコーラを奢ってくれた生活保護を受けている麦わらの老人だった。彼に怒鳴られたホームレスはゴミを地面に叩きつけ、怒りに震えている。

「お前さん、あんまり見るなって。見るとこっちに来ちまうからよ」

寅さんが涅槃のまま目だけこっちに向けて言う。かれこれ3時間はこのポーズを取っているが型に付きすぎである。

元ヤクザのホームレス

「なんやコラ。俺はずっとこの場所におったんやぞ! みんな知っとるんや。みんな俺のことを知っとるんや。違うんかコラ!」

麦わらの老人が怒鳴り散らしながら私の目の前にやってきた。だいぶ酒に酔っているようだ。

「俺はここで寝とった人間や。そこの交番もみんな俺のこと知っとるんやぞ。お前、意味わかっとんのかコラ? 俺はここの奴が死んでショックなんや。みんな俺のこと知っとるんやぞ!」

ここの奴が死んだ? どういうことなのか麦わらの老人に尋ねても話にならなかった。そこから30分以上、「俺はここの顔やぞ。違うんか?」と私に絡み続けてきた。無視を決め込んでいたがさすがに鬱陶しい。

「俺はここの顔やぞ。意味分かっとんのか、コラ?」

「分かった、分かった」

私が面倒臭そうに返すと火に油が注がれた。

「なんやコラ! お前、調子乗ったらあかんぞ! 俺は何十年ヤクザやっとったんだぞコラあ! お前、この前コーラ買ってやったの分かっとんのか? 口ばっかり。お前、人生経験が足りねえ、俺を見習え、コラ!」

散々人に迷惑をかけ、挙句に食えなくなったヤクザか。非常に胸糞が悪い。国民の税金で人にコーラ奢ってデカい顔するな。コイツに渡っている金など無駄でしかない。「生活保護受給者」ではなくコイツを一人の人間として見て感じた結果だ。これも生活保護バッシングになるのだろうか?

「聞き流しときゃいいから、聞き流しときゃ」

寅さんが小声で私に訴えかける。「先輩、もう遅いから帰ったほうがええですぜ」と寅さんがなだめると、「みんな俺のこと知っとるんやぞ? わかっとんのかコラ! 帰るぞコラ!」と暴れながらようやく麦わらの老人はいなくなった。

その様子を隅で見ていたのか、入れ替わるようにして若い男が私たちにチラシを渡してきてはこう言った。

「よかったら私とちょっとお話しませんか?」

チラシには富士山の写真が載っていた。某新興宗教の勧誘である。なぜ、このタイミングで勧誘しようと思ったのか。馬鹿にしているのだろうか。

「あっち行けクソ宗教が!」

私がチラシを押し返すと寅さんは手を叩いて笑っていた。