無心になれる瞬間

「何とかしなければ」そう思って歩いていた、ある日のこと。

ふと何げなく歩くスピードを速めて、走り出しました。

当時、満足に運動もしていなかったから、もちろん速くは走ることができない。足がもつれそうになります。けれど、ハアハアと息を荒らげ、じんわりと汗をかき始めたころから、ちょっとだけ気分が軽くなるのを感じたのです。

走っている、その瞬間だけは、いろんな心配事が頭から消えていました。

その日は一〇分、一五分、走っただけでしたが、たしかにその瞬間、無心になることができたのです。この「無心になれる」ということが、僕にとってすごく救いになりました。

なぜ、走ってみようと思ったのか、僕にもわかりません。走り慣れてないから、長い距離を走ることはできない。でも、無心になれることを見つけられたことは、僕にとって大きな収穫だったのです。

ランニングをする男性
写真=iStock.com/sportpoint
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マラソンが気持ちを前向きに

「マラソンを始めてみよう」

こんどは着替えて、三〇分ぐらい、歩いて、走って、歩いて走ってみました。すると、心地良い疲労感に包まれ、その日はぐっすり眠ることができたのです。

「これはもしかすると良いのかもしれない」

それから現在に至るまで、僕は天気の悪い日を除き毎日、走り続けています。

無理のない範囲で走ることを習慣にすると、心身がリフレッシュされているのを感じます。言葉で言い表すとすれば、「気が流れていく感じ」。

そんな日々を続けていくと、少しずつ「眠れない」ということ自体に対して、前向きな興味が湧いてくるようになりました。

走っているときは、仕事上のストレスも忘れ、無心になれる。もちろん、問題がそれで解決するわけではないけれども、走っていれば、少なくとも今までよりは眠りやすくなった。

少しずつ、少しずつ、良くしていこう。

気持ちが前向きに転じてくると、こんどは、「眠れない自分」の状況を良くしていくことに対し、「どんな工夫をしようかな」と考えるようになっていきました。薬に頼るのではなく、工夫すればきっと眠れるようになるはず。

そう僕は思うようになったのです。