ミツバチのオスは交尾だけが仕事で、その後すぐ死ぬ

ハチの場合、無精卵でも孵化でき、それらは全て雄バチになります。彼らは女王バチと交尾することだけが仕事で、それが終われば巣から追い出されて死んでしまいます。非常に短寿命で、実にはかない存在です。その後生まれた受精卵は全てメスの働きバチとなり、やがてメスだけの大家族を作ります。それを何年も何回も続けているわけで、女王バチは唯一の最強のシニアです。

ミツバチの死骸
写真=iStock.com/titoslack
※写真はイメージです

栄養学的に興味深いのは、女王バチは遺伝的には他の働きバチと全く同じ、つまり遺伝子は同じだということです。平たく言えば、女王になるための遺伝子というのはないのです。何が違うのかというと、幼虫のときの栄養状態です。働きバチが花粉や蜜を食べて消化して作り出すスペシャルフード、いわゆるローヤルゼリーをたくさん与えられるため、体は大きく成長し、卵を一日に2000個も産めるスーパーマザーになります。女王になる卵は、王台と呼ばれる大きめの穴に産みつけられます。そこの幼虫にだけ、働きバチがローヤルゼリーを吐き戻して与えるわけです。

一方、普通の巣穴に産みつけられた卵は、栄養制限で生殖器官が発達せず、子供が産めないメスの働きバチになります。感動的なのは、新しい女王が誕生し成長すると、古いシニアの女王のほうが働きバチの一部を引き連れて、巣を離れます。次世代に全てを差し出すのです。

シロアリの女王は数十年も生きて卵を産み続ける

同じようなすごい女王はシロアリにもいます。

こちらは、数十年生きると言われています。加えて女王と交尾する王アリも、女王に負けず劣らず長命です。まさにスーパーシニアですね。ヒトとの違いは、昆虫のシニアは決して一線を退いているわけではなく、生涯子孫を作り続けるということで集団の中での役目を果たしています。

ヒトの立場から勝手に考えると、ハチやアリの社会形態の見方は2通りあると思います。一つはストレートにシニア(女王)が「支配する」君主制の社会。女王のためにその他の個体が家来のように働いて尽くすという見方です。もう一つは、全員で女王を「支えて」繁栄する家族制分業社会。こちらは、女王が産卵という重労働を一人で引き受けて、周りはそれを応援するという見方です。