※本稿は、小林武彦『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
ヒト以外の生物はほとんどが「ピンピンコロリ」と死ぬ
ヒトは、これまで築いてきた「社会」により、他の生き物に食べられたり、飢え死にしたりするようなことは少なく、他の生物には見られない長い老後の期間を獲得してきました。つまり、本来は進化の過程で、長い老化した期間がある生物は選択されてこなかった、生き残ってこられなかったにもかかわらず、ヒトだけが例外的な存在になったのです。
ある意味「ヒトの社会が作り出した」とも言える「老化」そして「老後」とは、一体なんなのでしょうか? なぜ進化において「老化するヒト」が選択されて生き残ってこられたのでしょうか?
多くの生物にとって、老化して動きが緩慢になることは生存には不利なので、老化、つまり体がだんだん衰えていく状態は、積極的に選択されてきたものではなかったと思われます。つまり普通に考えれば、老化なんかないほうがいいのです。「老化がない」というのはどういうことかというと、死は必然なので「不老不死」になるというわけでなく、老いずに死ぬ、つまり「ピンピンコロリ」と死ぬことを意味します。