「君の意見を採用したら商品はいくつ売れる?」

日野さんは、1990年、まだ女性経営者が珍しかった高度成長期の昭和の香りが残る時代に起業。以来33年、さまざまな企業へ顧客起点のマーケティングを実装している。スタートは、社会人としてはじめて勤めた広告代理店を退職し、出産後に組織化したママさんたちのネットワーク。10年かけて5万人の組織をつくり上げ、女性たちの声を企業に届け続けた。以来、住宅設備、食品、車など、関係する企業、業種は多岐にわたるという。

「男性中心の社会では、女性ひとりの声ではダメなんです。私も上司やクライアントから『君の意見を採用すればわが社のキッチンがいくつ売れる?』『お前の意見は、この商品のターゲット層の意見ではない』と言われ続け、撃沈の連続でした。男性に提案する際は、数字が必要なんですね。そして、肩書も重要。一人の女性社員ではなく、社長の名刺で勝負しようと。それで起業したんです」

男性社会の中で女性の意見を伝える困難さを実感しているのか、参加メンバーの多くが大きくうなずき共感していた。

日野さんの「男性は怖がり。数字を見せることが彼らの幸せにつながるんです」という言葉は特に印象的。男性は感覚よりも“事実”である数字を重視しがちだと日野さん。だからこそ、女性が仕事を進めるうえで“データ”を活用することの重要性を強調した。

「男性を説得するには、“国が出す“社会的データ”、業界が出す“男女混合データ”そして、実際のターゲットである“購買層データ”。この3つを揃えるとほぼ、聞いてくれます」

男女のマーケティングデータの特徴を解説する日野さん。メンバーの熱い視線が集まる。
撮影=田子芙蓉
男女のマーケティングデータの特徴を解説する日野さん。メンバーの熱い視線が集まる。

さらに、日野さんいわく、マーケティング経済用語にはファッションのようにトレンドがあり、そのトレンド用語をプレゼンに散りばめることで、理解されやすくなるとも。この言葉には全員の笑顔がこぼれた。

社員100人を抱えるまで急成長した日野さんの会社は、2008年のリーマンショックで、縮小を余儀なくされた。社員も10名までに減らし、株価もゼロに落ちた。しかし、そうした苦労も経験してよかったと日野さんは振り返る。

「リーマンを機に、47万人の女性たちに意見を聞き、あらためて『何が本質なのか』にじっくりと向き合いました。そこで女性たちは5つの価値でモノを選んでいるということがわかったんです」

5つの価値とは、商品そのものである「基本的価値」、自分にとっての「個人的価値」、おしゃれや見た目の「情緒的価値」、世の中的にどうなのかという「社会的価値」。そして、使うと便利かどうかの「便宜的価値」。そこでもっとも重要なのが「社会的価値」なのだという。こうした「買い物行動」を中心に、女性たちの本質をより理解したからこそ、今があると日野さんはメンバーに熱く語った。