「何のために歯磨きをするか」を知っているか

――歯の健康について、セルフケアで心がけるべきことはありますか?

「歯磨きはなんのためにやっている?」と訊かれたら、なんと答えますか?

――清潔のためでしょうか。

そうなると、どこをどう磨くかということではなく、単になんとなく毎日歯磨きをして、さっぱり、すっきりすればいいということですよね。学生にもよく訊くのですけど、そう考えている人はとても多いです。でも、実際にはそれでは駄目なのです。歯垢(プラーク)という言葉を聞いたことがあると思います。歯垢を溜めないことが大切だとよく言われます。

でも、歯垢は歯面に付着する微生物からなる構造物で、つまりこれは食べかすではないのです。食べかすだと勘違いしている人が多いから、歯磨きをして、さっぱり、すっきりすればいいとほとんどの人が考えてしまうのです。

この微生物の塊である歯垢は、ちょっとやそっとでは取れません。よく薬用のマウスウォッシュでゆすげば歯磨きをしなくていいと思っている人もいます。たしかにすっきりはしますが、歯垢のケアにはならないんですね。この歯垢がむし歯や歯周病などの原因となるのです。

歯磨きは細菌のバリアを壊すため

――食べかすを洗い流して、すっきりするだけでは駄目だということですね。

まさにそうです。かつ、歯垢は口腔のバイオフィルムといわれます。たとえば、台所の流しにぬめりができたりしますよね。それもバイオフィルムの一種です。それと同じで、口腔の細菌はバリアをつくります。細菌がぬくぬくと巣をつくって、外からくる薬液などを浸透させないためのバリアです。ですから、うがいをしても抗菌作用のある薬液がダイレクトに細菌をアタックしづらいのです。細菌たちが自分たちの住処を守っているのです。

歯垢は、歯にしっかりとくっつきますから、やさしい力で細かく歯ブラシの毛先を振動させて歯ブラシの毛先で物理的に擦り取らなければいけません。その時注意するのは、強い力で磨きすぎないこと。磨きすぎる(オーバーブラッシング)と、歯や歯茎を傷めてしまいます。

歯ブラシで歯垢を取るのは完全には難しいですが、とにかくそのバリアをある程度壊してあげないと、どんどん悪い菌が増えてしまい、むし歯や歯周病につながってしまいます。

私が今回どうしても伝えたいのが、ただ歯磨きだけではむし歯を予防できないということなのです。重要なのは、フッ化物を使った歯磨き粉(歯磨き剤)を使うことです。

日本では常識になっていないのですが、世界ではこれが常識になっています。食べたらすぐに歯を磨けばむし歯にならないと思っている人が日本では多く、だから何度も磨けばいいという発想になっている。実際に、歯科疾患実態調査からも、日本人の歯を磨く回数は増えている傾向にあります。口臭予防もありますし、その気持ちはわかるのですが、たくさん磨けばいいというわけではないのです。

(後編に続く)

(取材・構成=フリーライター・宮崎智之)
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