家庭教師確保のための競争

家庭教師ではなく塾を選んだ人たちにその理由を尋ねると、「高いから」以外に、「よい家庭教師を探すのが大変だから」「評判のいい家庭教師を確保できなかったから」という声が頻繁に出てくる。

中野円佳『教育大国シンガポール』(光文社新書)
中野円佳『教育大国シンガポール』(光文社新書)

つまり、家庭側が優秀な家庭教師を確保するのが難しく、獲得競争が熾烈しれつなのだ。もちろんシンガポールにも、日本にもあるような家庭教師紹介サイトや派遣サイトのようなものはある。しかし、実際に家庭教師を雇っている人に、どうやって見つけたのかを聞くと、ほぼほぼ「友人や親戚の紹介」だ。

しかも、半ば常識になっているのが、実績のある家庭教師には数年前から唾を付けておいて、今見ている子どものPSLEが終わった途端に、自分のところに来てもらうというものだ。

韓国の医学部受験をめぐるドロドロを描いた韓国ドラマ『SKYキャッスル』にも、受験コーディネーターについてもらうために奔走する話が出てくる。世界中で巻き起こっている「家庭教師の獲得競争」には、頭がクラクラしてくる。

シンガポールにおいて、親戚や知人から評判のいい家庭教師を紹介してもらえることは非常に重要。結局、経済資本、社会関係資本の有無によって、家庭教師を雇えるかどうかが決まっていることがうかがえ、ここでも恵まれた人がより有利な競争環境を確保していくという格差の実態を見ることになる。

<参考文献>
※1 岩崎育夫(2005)『シンガポール国家の研究 「秩序と成長」の制度化・機能・アクター』風響社
※2 Chen, M., Yip, P. S. F., & Yap, M. T., 2018, Identifying the most Influential Groups in Determining Singapore's Fertility, Journal of Social Policy, Vol. 47(1), pp.139-160.
※3 Sun, S.H., 2012, Care Expectations, mismatched: State and Family in Contemporary Singapore, International Journal of Sociology and Social Policy, Vol.32 No.11/12 pp.650-663.

中野 円佳(なかの・まどか)
ジャーナリスト

1984年生まれ。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。15年から東京大学大学院教育学研究科博士課程、フリージャーナリスト。キッズライン報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞受賞。22年から東京大学男女共同参画室特任研究員。