異動が忌避されない工夫も
これらJF、JG、JD、FCが同社のジョブ型人事制度の重要パーツとなる。では、評価、採用、異動、キャリア開発の各場面でどのように機能するのか見ていこう。
まず評価。本人が所属するJGにふさわしい成果を発揮しているかどうかが4段階で示され、給料もそれに応じて決定される。グレードが上がる、つまり、より大きな職務を任せてもらうためには、FCも十分に発揮していなければならない。
採用に関しては、まず中途採用はJFごとに行われている。「そもそもジョブ型は中途採用に親和性の高い仕組みです。JDもしっかり整えられ、より多くの優秀な人材が集まりやすい仕組みになっていると思います」
問題は新卒で、日本の場合、配属先を決めない総合職という呼び名の採用が一般的だが、資生堂は部分的にジョブ型を導入した。「当社では総合職という名称は残しつつ、研究開発、財務・経理、生産、マーケティングといった分野では、JFをあらかじめ決める、いわば配属先確定採用を行っています」
社内の異動については、基本的に本人の意思が尊重される。社内公募制度が整えられているJF間で異動する場合、たいてい未経験の業務に就くため、JGが下がることになるが……。「もしそうなると、異動が忌避されてしまう。それは会社として困ります。明確に期間を定めているわけではありませんが、異動後も、一定期間はJGは変わらないというように運用しています」
欧米企業でのジョブ型人事制度では社内異動はほぼないが、日本企業は頻繁にある。先のJDにしろ、こうした異動後のJGの取り扱いにしろ、さらに専門能力を意味するFCという概念にしても、資生堂の仕組みは欧米型と日本型をうまく融合しようとしているのだ。
同じJF内のグループ異動もある。たとえば、人事の場合、採用、報酬管理、組織開発、そして各部門の人事戦略の策定と実行に携わる専門人事(HRBP)といったように異動し、さまざまな経験を積むことによって、一人前になっていく。その際、やるべき仕事と必要なスキルはJDという形で、明確に提示されている。
「ジョブ型導入の目的の1つが社員のキャリア自律を促すこと。各自が自分のキャリア開発プランを毎年作り、年初、中間、年末と年3回、上司と対話するようにしています。そこで重要になるのは、自分はこんな仕事がしたい、こんな形で組織に貢献したいというキャリア・アスピレーション(大志)です。上司もそれに応えて、それぞれの部下の成長を意識しながら、仕事の割り振りを考える必要があります」
育休など個別事由をハンディにしない
このジョブ型導入の目的がもう1つある。年功序列の排除である。以前の職務遂行能力を基盤とした制度では、あるグレードから次のグレードに上がるためには、一定以上の評価を数回連続して獲得しなければならなかった。「累計昇格ポイント制といって、いくら優秀な成績を上げても、昇格するのに7、8年かかりました。今回はそれをなくしました。仕組み上は毎年昇格することができますし、女性社員が産休や育休で休職しても、不利になりません。もちろん男性もです」
このJGは全世界の資生堂に適用されるが、JGを決めるものさしが3つ並立していたところ、22年1月に統一され、晴れて資生堂グローバルの仕組みとなった。自分の専門性を磨きながら、日本のみならず、世界で活躍したい、という人は挑んでみてはどうだろうか。