成果、行動、人間力も評価項目に

DDI、KDD、IDOの3社が合併し、KDDIが誕生してから約20年が経過した今、なぜこうした人事改革に乗り出したのか。白岩さんによれば、事業の多様化と人材(人財)の流動化、若者のキャリア意識の伸長という複合的な要因が重なり合っているという。

「われわれは主力の携帯電話事業から、金融、エネルギー、電子商取引といった異分野に積極的に進出しています。そこで活躍しているのは、キャリア採用で入った自身の専門領域、すなわちジョブを持ったその道のプロたちです。10年前と比べ、その数は20倍に増え、毎年の新入社員の数をすでに上回っています。この人たちに存分に力を振るってもらうためには、従来型の年功制はふさわしくない。しかも、今の若者は新卒でもキャリア意識が鮮明です。自分のジョブを意識し、入社前から配属先が決まっているWILL採用が22年は新卒全体の半数を占めています」

今回の人事制度のコンセプトは「プロを創り、育てる制度」だというが、プロといっても、すご腕の一匹狼のような人材を求めているわけではない。それは、あわせて創設された新たな評価制度に表れている。仕事の「成果」とそれを高めるための「挑戦的な行動」は当然だが、安定的な成果を出すための土台となる「人間力」もあわせて評価される。具体的には上司・同僚・部下からの360度評価が大きな鍵を握る。

ジョブの転換ももちろん可能だが、未経験の場合、その仕事を本当にこなせるのか、不安に駆られるケースもあるはずだ。その場合に役立つ、社内副業制度という格好の仕組みが20年6月から始まっている。自ら志願する形で、グループ会社含め、担当外の社内の仕事に全就業時間の2割で関わることができる。直接的な賃金は支払われないが、その成果は評価の対象になる。「ジョブ型人事制度にあわせて創設されたものではありませんが、結果として、自分のジョブを見つけ、磨くための仕組みとして機能しています」

社内のオープンスペースは、打ち合わせができるソファ席や集中できるカウンター席など多様。
撮影=市来朋久
社内のオープンスペースは、打ち合わせができるソファ席や集中できるカウンター席など多様。
キャリア自律を促す日本のジョブ型
欧米のジョブ型では能力評価は行われない。あくまで職務記述書に書かれた仕事の遂行具合が評価対象となるが、資生堂もKDDIも、コンピテンシー(資生堂)や人間力(KDDI)といった能力面での評価が加わる。さらに欧米型では従事している事業が消滅したら職を失うが、資生堂、KDDIともに事業が消滅した場合でも解雇されない。両社のジョブ型は、年功制の排除はともかく、従来の日本型人事の大きな枠組みは変えず、社員に自身のキャリアに関する意識をより鮮明に持たせるようにしたものだといえる。

撮影=鈴木愛子、市来朋久

岩辺 みどり(いわなべ・みどり)
ライター

荻野 進介(おぎの・しんすけ)
文筆家

1966年、埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、PR会社を経て、リクルートにて人事雑誌『ワークス』の編集業務に携わる。2004年退社後、フリーランスとして活動。共著に『日本人はどのように仕事をしてきたか』『史上最大の決断』など。