1万円だけ入った財布を持ち次男を連れてシェルターへ

「一緒に暮らすのはもう限界」と感じた2019年に、女性向けのシェルターを紹介された。そこで、「あなたのされていることは、DVの典型ですよ」と言われる。呪縛が解けたような気がした。離婚を子どもたちに打診すると、中学生の長男は「転校するのはいや」と父親とー緒にいることを望んだ。次男は「ママと行く」と言う。少しでも貯金しようと、知り合いの仕事を手伝い始めた。

そしてコロナが拡大する2020年3月末、1万円だけ入った財布を持って次男と家を飛び出した。警察にもDV被害を報告し、シェルターに身を寄せた。そこに2週間ほど滞在し、アパートを探す。実家滞在も考えたが、親と折り合いが悪く戻りにくい。以前の勤務先の社長からの借金と基金から借りて工面した60万円は、アパートを借り、最低限の生活必需品等を備えると、15万円しか残らなかった。当時は無職。「家賃を払い終えたら、1カ月持つか」と不安だった。

暗がりで頭を抱えている女性
写真=iStock.com/kumikomini
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そこへ特別給付金が一律10万円支払われると報道された。

20万円を手にし「これであと2、3カ月はいける」

「世帯主の夫に入金されるので、私には届かないだろうとあきらめていたのです。でも、DVが原因でシェルターに滞在していたことを示す保護証明書を提出すれば受給できると聞いて。その証明書を持って役所に行くと、なんら問題なく受理してもらえました」

通帳に20万円の数字を見たとき、「これであと2、3カ月はなんとかいける」と感じた。同じ頃、5月末に登録した派遣会社から連絡があり、派遣先が決まった。時給1060円で、月曜から金曜のフルタイム勤務。やりくりすればふたりで暮らしていける。給与支給は7月からだったが、なんとかいける。

「私にとってコロナは家を出るタイミングを与えてくれ、給付金もいい追い風になったと思います」

山本は給付金がスムーズに入ったケースだが、世帯主または住民基本台帳に登録のあることなどの給付要件がネックになり、申請できなかった女性もいると聞く。