迷ったときにまずすべきこと

マーケティングの世界には、「迷ったらターゲットに戻れ」との定説があります。

企業やブランドが長く続くのは素晴らしい。半面、自社の商品やサービスを取り巻く環境は日々変化し、「理由はよく分からないけれど、最近なにかが違う」と違和感をおぼえ始める。齊藤さんが入社した直後の貝印が、その状態だったと言えるでしょう。

そんなとき行うべきことは、彼がとった行動ともリンクします。すなわち、いまどんな人たちが自社を愛し、支持してくれているか。逆に、どんな人たちには響いておらず、購入頻度も低いのか。まさに「ターゲットのリアル」を知ることが大切です。

フォロワーの平均年齢30歳前後…若返りに成功した青汁

自社の未来を考えれば、早いうちに若者と真剣に向き合い、ターゲットの若返りや多様化を図る視点も重要になる。

近年、ブランドの若返りに成功した企業として、中高生をターゲットに「ガチダンス選手権」などを展開する「ポカリスエット」(大塚製薬)や、誕生30周年を機にさまざまなタイアップを実施して20代を取り込んだ「雪肌精」(KOSE)、あるいは企業ロゴ変更やSNSキャンペーンの連続で「脱・青汁」を目指し、ツイッターフォロワーの平均年齢を30歳前後まで押し下げた「Q’SAI(キューサイ)」などが挙げられます。

ただし若者を惹きつける際、“話題”にしてもらうことばかりを追ってはいけない。大切なのは、彼らが自社の商品やサービスに強く“共感”してくれること、そして「この企業(ブランド)は、自分たちの味方だ」と心から信じてくれることでしょう。

そのためには、若者の悩みにとことん向き合い、寄り添い、彼らに“響く価値観”を創出すること。

そしてもう一つ、齊藤さんがもがいたように、社内の人たちにも“響く価値観”を見つけ出し、説得し、一人でも二人でも仲間を見つける必要がある。

大変な作業ではあります。でも彼が掘り当てた新たな概念と顧客(ファン)は、この先15年、20年後に、さらなる成長や進化を遂げているはずです。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター、世代・トレンド評論家、インフィニティ代表

立教大学大学院(MBA)客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか多数。これらを機に数々の流行語を広める。NHK総合『サタデーウオッチ9』ほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。