若者の認知度が2割台という衝撃データ

念願の調査からまず見えたのは、60代以上における、自社認知度の高さ。貝印を知るシニアは、男性で83%、女性では94%にものぼりました。

一方で、約30万人に及ぶ全会員の平均年齢は「55歳」だったと判明。19~24歳の認知度が2割台に留まることも分かり、社内には衝撃が走ったといいます。

貝印 マーケティング本部の齊藤淳一さん。
写真提供=貝印
貝印 マーケティング本部の齊藤淳一さん。

シェアの高さから考えれば、いまも多くの家庭に、貝印の包丁や爪切りなどがあるはず。でも近年、同社はパッケージなどに印刷するロゴや社名を控えめにしており、「若い世代の多くは、使っていても『貝印製』とは認識していないのでしょう」と齊藤さん。

そこで18年夏以降、彼が「若い世代の思いを知ろう」と日課にしたのが、SNSの呟きを追うこと。多い日は1日に100件以上、若者の呟きと思しき「カミソリ」「ムダ毛」などのキーワードを目で追い続けました。

時には自社へのネガティブな投稿に、心を痛めることもあったそうです。

このころ、世界的に“見た目”やジェンダーを巡る論争がヒートアップ。

セクハラ被害を次々と世に訴える「#MeToo」運動(17年~)や、レディー・ガガのポジティブなカミングアウト、すなわち「わき(毛)」や「脚の毛」を「どう?」と見せたり、「一定期間、剃っていない」としたりする発言や投稿(17年/19年)が話題でした。

また20年、日本でも美大生(当時)が「体型のコンプレックスを煽るような表現で、商品を宣伝するのはやめてほしい」と呼びかけ、たちまち3万人もの署名を集めました。

剃るか剃らないかは自分で決めたい人が9割

こうしたなかで、齊藤さんが目にしたのは、「なぜ男は(処理を)しなくてもいいのに、女はツルツルじゃないとダメなの?」や、「そもそも『ムダ(毛)』って言い方がおかしくない?」など、ジェンダーや体毛の概念を疑問視する声の数々。

そこで20年、今度は15~39歳を対象に、剃毛・脱毛に関する調査を実施。

すると、まるでファッションや髪型のように、剃る・剃らないを「気分によって決めたい」とする人が8割超、「自分自身で自由に決めたい」とする人が9割超にものぼった。

ここから生まれたコンセプトが、先の「#剃るに自由を」だったのです。