「その他」の声が起爆剤に

2016年2月、個人向けの出張撮影サービス「fotowa」を立ち上げた。写真を撮ってほしいユーザーとフォトグラファーをつなぐプラットフォームだ。初めて入った予約は入園・入学記念の撮影で、事業部のメンバーで祝杯をあげた。その後は七五三の写真を中心に業績を伸ばしたが、シーズン以外は依頼が落ち込むという次の壁にぶちあたった。そんな矢先に李さんが着目したのが「ニューボーンフォト」である。生後一カ月以内の赤ちゃんを撮影する記念写真で、海外では日本で流行る数年前からインスタで話題になっていた。

「fotowaの注文履歴やアンケート内容を見直していたとき、七五三でもお宮参りでも、家族写真でもなく『その他』のジャンルを選択している人が多いなと気になりまして。さらに詳しく見ていると、その多くが、フォトグラファーとのやり取りに『新生児の撮影をお願いします』とリクエストしているもので。そのとき、国内でもニューボーンフォトのニーズがこれから来ると思いました」

fotowaはこのニューボーンフォトを起爆剤に、後発ながら業界No.1のサービスへと大きく成長を遂げることになる。今でも、李さんはサービス内に投稿されるユーザーレビューのすべてに目を通しているほか、社内外の声にも積極的に耳を傾けるようにしている。それらの声をヒントに新たに始める施策も少なくない。2022年4月にフォトグラファーに対してスタートしたLBGTQ(性的少数者)セミナーも、その一つだ。

テーマは「LBGTQ(性的少数者)当事者とその家族への理解を深める」というもの。

きっかけは、LGBTQ当事者である友人から、理解あるフォトグラファーに依頼したいが、どう探したらいいのかわからないという相談だった。

もしかしたら、そういう不安から家族写真をプロに撮影してもらうことを諦めている人も多いのではないかと思い調査してみると、実際に家族写真をあきらめている人が多いことがわかったのだ。

「フォトグラファーから悪気なく踏み込んだ質問をされるんじゃないか、とか、変な眼で見られてしまうんじゃないかとか、写真を撮りたい気持ちはありつつも、不安を感じているようでした。そこで事前のセミナーを提案したら、あるフォトグラファーから『自分も以前からその声にこたえたいと思っていた。fotowaがニーズに応えて動いてくれてうれしい』という声もいただきました」

ユーザーが安心して依頼できるように、セミナーを受けた上で理解度テストに合格したフォトグラファーのプロフィール欄には、「LBGTQフレンドリー」のアイコンを表示するようにした。結婚式や親子写真など、それぞれの要望を当日までに相談しながら撮影にのぞむことができる。そうした配慮はLGBTQ当事者に限らず、例えばじっとしているのが苦手な子や行き慣れていない場所に不安を感じる子たちの親にも喜ばれていた。

「わが家らしさはそれぞれ違います。例えば、笑顔の写真がいちばんとは限りません。泣き顔だってかけがけのない思い出のひとつ。私は、家族の関わりが伝わる写真こそが、いい写真だと思っています。家族間って、楽しいことだけじゃなくていろんなことが起こるけれど、でもあなたと家族でよかった、私と家族でいてくれてありがとうって、振り返るきっかけの一つになるのが、家族写真だと考えていて。そうであればいいなという希望も入っていますね」

「父も無理な結婚・妊娠を望んでいるわけじゃない」

fotowaの仕事を通して、今はやりがいも増している。日本で暮らして10数年、転職や起業など苦戦もしてきたが、座右の銘は「生きてさえすれば、なんとでもなる」。どんなときも変化を怖れず、楽しもうと努めてきた。

そんな李さんにも、自信を持てず葛藤した時期があった。LGBTQ当事者である李さんは、大学時代、サークルで仲の良かった友人に勇気を出してカミングアウトしたが、その場の一瞬のリアクションで「明らかに引かれた」のが分かりショックを受けた。両親に20代後半で告げたときも、父親には「こんなことなら産まなければよかった」といわれた上にカミングアウトは聞かなかったことにされ、母は話を聞いてはくれたものの事実を受け入れることはできない様子だったという。

「当時は周りから承認されることでしか、自分を認められなかったから、それがつらくて、しんどくて、それは大きな葛藤がありました。けれど今は、自分ができなかったことじゃなくて、日々できたことに目を向けて、その一つひとつを自信につなげることができます。正解のわからない完璧を目指すよりも、だれよりも自分が、本当の自分を認めてあげることが何より大切なのかなと思います。今は認めてくれない父も私が無理に結婚して子どもを生むことを望んでいるわけではないと思うので。まぁ、希望的観測なのですが……(笑)」