前進するには受容するしかない

私たちは、人生の「相転移」の前後で絶対的な矛盾に直面します。2つの相反する思いを知るからです。1つはこれまで通り、成長し、成功し、昇進し、家族を養うなど目標に向かって「こうあらねばならない」という思い。もう1つは、体力が衰え、身体能力が弱まり、社会的活躍の限界も見え、やがて肩書きもなくなってしまうという「そうあることはできない」という思い。その狭間で苦しみます。「ねばならない」と「そうできない」に挟まれ動けなくなり、もがき苦しむのです。

『人生は図で考える 後半生の時間を最大化する思考法』
『人生は図で考える 後半生の時間を最大化する思考法』

先述のプロセスで言えば、「否認」もするでしょうし、「怒り」もするでしょう。また「取り引き」や「抑うつ」もあります。しかし、前に向かって進むためには、最終的にはすべてを「受容」するしかありません。

自分を否定もするが、受容もする。

相反する2つのどちらか1つを選び取るのをやめて、それらをあるがままに受け入れあきらめてしまう。降参してしまうのです。すると、そこにはスペースが生まれます。そのスペースから何かが新たに動き出し、自然に別の風景が広がります。新しい人生が始まるのです。

「あきらめる」の語源は「明らむ」である

「あきらめる」は、漢字で「諦める」と書きます。ふつう、「願いが叶わず仕方ないと断念する」というネガティブな意味で使われますが、この言葉の語源は、「明らむ」、つまり「明らかにする」というところにあります。

創造的なアイデアや問題解決の概念、青い背景を持つ木製のブロックにガラスと電球のアイコンを拡大
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仏教の世界では「諦」という字には、「真理・道理」の意味があります。「あきらめる」とは、真理・道理に照らして、現実を明らかにし、納得して先に進むことなのです。

ぜひ、実際に試してみてください。

にっちもさっちもいかないことがある。心の中で両手をだらりとおろし、それを受け入れてみてください。ほら、あなたとその困難の間にスペースが生まれた気がしませんか。それが、「明らめ」です。大きな困難に直面したときは、「明らめ」て、その矛盾や運命をそのまま受け入れるところから心が動き始めます。いわば、「明らめ」からの反転です(図表1)。それによって、現実が未来に向けて動き出すのです。

平井 孝志(ひらい・たかし)
筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。MITスローンスクールにてMBA、早稲田大学にて博士(学術)取得。ベイン・アンド・カンパニー、デル、スターバックス、ローランド・ベルガー等を経て現職。著書に、『キャリアアップのための戦略論』、『武器としての図で考える習慣 「抽象化思考」のレッスン』、『武器としての図で考える経営 本質を見極め未来を構想する抽象化思考のレッスン』など多数。