改革案は「トップに通じる言葉」で発信する

【木下】製造業の女性管理職比率は他業種に比べて低く、男性社会の古い体質が残っている企業もあるようです。どう改革していくのがいいと思われますか?

【東】やはり、女性社員の活躍を支援する組織づくりと意識改革をセットで行う必要があると思います。製造業には体力や腕力が必要な現場もあり、身体的に厳しい場合も少なくありません。また、工場の稼働を止めないために、夜間や休日の勤務を求められることもあり、子育て中の社員が対応しにくいという問題もあります。

身体的な問題は、ケースの重量を軽くする、分業制にする、現場の機械化やデジタル化を進めるといった工夫である程度解消できるでしょう。夜間や休日勤務については、今後ますます男性の育児参加が進んでいくと思いますので、男女問わず大きな課題になると思います。継続的な人財確保のためにも、会社として今から問題解決に取り組んでいかなければなりません。

【木下】人事担当者の改革案に経営陣が理解を示さない会社も多いと聞きますが、その場合はどう進めていったらいいでしょうか。

【東】当社の経営陣は改革に対して非常に積極的で、特にD&I推進や働き方改革、変革リーダー育成を経営戦略における優先課題のひとつと捉えています。こうした積極度は企業によって異なると思いますが、今やダイバーシティはどの企業の経営にとっても必須の課題になっていますから、「多様性は必要ない」という経営者はほぼいないでしょう。

ただ、多様性が大事だとは理解していても、自ら動く経営者はまだ多くないという印象があります。やはり、経営者自らが多様性の必要性を発信して、そこにリソースを割く覚悟をしていないと、人事がどんなに奮闘しても先には進めないと思います。私の場合は、改革案を提言するとき「なぜ今、当社に必要なのか」を経営とビジネスの視点に立って考え、トップに通じる言葉にして、数字や根拠を示しながら発信するように心がけています。

【木下】御社では、2020年から次世代リーダーの育成のために「コカ・コーラ ユニバーシティジャパン(CCUJ)」という取り組みを始められました。きっかけや内容を教えていただけますか?

【東】全社的な経営改革を始めたことによって、それを推進する変革リーダーが必要になったためです。製造業の現場では、長年受け継がれてきたやり方を見せて育てる「率先垂範型」のマネージャースタイルが主流です。もちろん、こうしたスタイルも大切ですが、変革をリードする、イノベーションを生むとなると求められるリーダー像も変わってきます。そこで、変革をリードする人財を特定して育成するプログラムとしてCCUJを立ち上げたのです。

具体的には、各部門で毎年行っている「人財会議」でキーとなる人財を選抜し、CCUJによって部門長と所属長、管理職手前のリーダーの各層に変革リーダーを育成しています。研修では、変革力や人を巻き込む力、新しいことを意欲的に学ぶマインドセットなど、当社が変革リーダーに求める能力とスキルを養っていきます。実際、研修後に行った調査では、参加者の中に「率先垂範するリーダー」より「変革するリーダー」を志向する人が増えていました。

木下明子編集長と東 由紀さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)