2017年に国内のボトラー社が統合し、売上収益でアジア最大、世界でも有数の規模を誇るボトラー社となったコカ・コーラ ボトラーズジャパン。19年にはカリン・ドラガン氏を社長に迎えるとともに、「今までのやり方は選択肢にない」という強いメッセージを掲げ、変革のスピードを加速させている。昨年7月には、次世代リーダーを育成するための「コカ・コーラ ユニバーシティ ジャパン」(CCUJ)を設立。同社が、なぜ今変革リーダーを育成するのか。その象徴であるCCUJではどんな学びが提供されるのか。同社執行役員で人事・総務本部長の上村成彦氏と、人財開発部長の東由紀氏という二人のキーマンに話を聞いた。

社会から求められる変革リーダーの育成に向け、万全な体制を構築

──まずはコカ・コーラ ボトラーズジャパン誕生の経緯と、変革に力を入れている背景についてお教えください。

【上村】私が小さかった頃、日本では炭酸飲料が主流で、中でも「コカ・コーラ」は当時から人気がありました。そうした時代の背景もあり、各地に17のボトラー社が誕生したわけです。ただ近年の日本では、消費者ニーズの多様化に伴いさまざまな清涼飲料水が登場。当社も、他社との競争に参入したり、あるいは新たなマーケットを自ら生み出していかなくてはなりません。そうなると、ノウハウを結集し、激化する競争環境にこれまで以上に迅速に対応していく必要がある。このような理由から12のボトラー社の統合を経て、2017年4月にコカ・コーラ ボトラーズジャパンが誕生しました。

統合前は、ボトラー社ごとにそれぞれ独自の手法でビジネスを展開しておりましたが、統合後はアジア最大、世界でも有数の売上高を誇るボトラー社になりました。すでに組織も大きく変革しており、これまでの個々の手法は通用し得ない状況です。この変化に適応するためには、変革をリードする人財を育成することが、当社にとって必須かつ急を要する課題でしょう。そこで「今までのやり方は選択肢にない」という強いメッセージのもと、変革のスピードを加速させているわけです。

上村 成彦(うえむら・なりひこ)
執行役員 人事・総務本部長
一橋大学卒業後、ソニーの海外事業本部で長年活躍。2009年に同社のアジア・オセアニア・中近東・アフリカ地域統括会社社長に就任。13年に同社人事部門副部長、翌14年に日清食品グループ執行役員・CHO(人事責任者)を経て、18年にコカ・コーラ ボトラーズジャパン上席執行役員兼人事本部長に就任。20年1月より現職。

──変革リーダーの育成方針と特徴的な取り組みなどについてお教えください。

【上村】今までの方針と大きく異なるのは、頑張った人にはそれなりのリターンがあるという「パフォーマンスカルチャー」を取り入れたこと。当社では、社員の業務実績だけでなく、自律的に能力やスキルを向上させ、さらに高いパフォーマンスを発揮するために学習することを公正に評価していることも特徴の一つです。その学習環境も提供しており、例えば、個々のケイパビリティーの向上を促すさまざまな研修に加え、受講料の一部を補助したり、終了時の成績等によって会社から還付金を受けられる講座を約500種用意しています。2020年度の実績では、延べ2万775人が何かしらの研修・講座を受講し、同年の総研修受講時間は12万6736時間に上りました。

【東】また、管理職の働きぶりを上司と部下、本人の3者で評価する「リフレクションサーベイ」の導入もポイントです。3者の評価がかけ離れている場合は、人事も介入してその原因を探り、改善に努めます。さらにこのデータを基に、当社の管理職全体の傾向や課題をあぶり出し、それを踏まえて管理職研修のテーマを検討します。このように多角的なフォロー体制を用意した結果、2018年のスタートからわずか3年で、人事が介入するようなケースは半減しました。

変革リーダーを育成する「コカ・コーラ ユニバーシティ ジャパン」(CCUJ)とは?

──昨年7月に始動した「コカ・コーラ ユニバーシティ ジャパン」(CCUJ)は、貴社の変革リーダー育成に対する本気度が表れているように思います。

【上村】20世紀の日本には、放っておいても若手が成長できる機会がたくさんありました。しかし現代では、組織の側がそれなりのプログラムを用意する必要があると思います。変革のスピードを加速させたいならなおさらです。実はアトランタに本社を構えるザ コカ・コーラ カンパニーに変革リーダーを育成する「コカ・コーラ ユニバーシティ」があり、このプログラムを日本語化するとともに、独自のプログラムを加えて発足したのがCCUJになります。

【東】CCUJは、部門長級、所属長級、一般職リーダー級の3階層に分かれており、それぞれ選抜されたメンバーが参加します。いずれの階層も、「イノベーション」「戦略的思考」「ピープルマネジメント」「エフェクティブコミュニケーション」「グロースマインドセット」という5つのケイパビリティーを向上させることが狙い。入校直後に受講者は外部のアセスメントを受けて、この5つの中で自分の強い部分と弱い部分を把握してもらい、階層ごとに異なる6カ月~10カ月のプログラムを通して、強みの強化と課題の解消を目指します。

部門長級、所属長級、一般職リーダー級の3階層に分かれるCCUJ(左図)。いずれの階層でもそれぞれのプログラムを通して5つのリーダーシップケイパビリティーズを強化することが目的(右図)。

──第一期のCCUJでは、具体的にどのようなプログラムが実施されたのでしょうか。

【東】一般職リーダー級の階層では、例えば参加メンバーがそれぞれの職場で直面している課題を持ち寄り、その一つ一つを深掘りし、仮説を立て、各現場に持ち帰って実践し、その結果の報告と分析、再検討というサイクルを何度も繰り返すプログラムを実施しました。このインプットとアウトプットをセットにした経験学習により、戦略的思考に必要な知識と行動を身につけてもらいます。

また、現場での失敗が許されない所属長級階層でも経験学習を取り入れるため、仮想の地方創生プロジェクトを開講しました。仮想といっても、実際に地方でさまざまな課題と向き合っている経営者の方々と当社に関心を寄せるインターン生にも参加してもらい、チームごとに実課題の解決策を模索します。本プロジェクトは受講者からも非常に好評で、第二期での実施も検討しています。

第一期には、3階層あわせて計120人超が参加。今後も毎年100人前後の変革リーダーを生み出し続けていく計画です。また、CCUJは修了したら終わりではなく、修了生をより自発的な学びで結ぶネットワークも立ち上げる予定。さらに、新たなCCUJメンバーのメンターとしての活躍にも期待しています。

意識を変革したリーダーたちが社会全体に希望を与える存在に

──すでにCCUJ受講者の意識の変化が数字にも表れていると伺いました。

【東】九州大学ビジネス・スクールの松永正樹准教授協力のもと、受講者のリーダーシップに関する意識を測定するアンケート調査を実施。定量データと自由回答に出てくるキーワードとともに、プログラム受講前後の志向の変化を分析しました。その結果、「変革志向リーダー」は19.8%が31.9%、「支援・育成志向リーダー」は15.3%が26.1%にそれぞれ増加。さらに、当社が割合を減らしたいと考えている「権威依存型リーダー」は28.2%が19.4%、同じく「プレイングマネージャー志向リーダー」は22.8%が11.3%と、それぞれ大幅に減少しました。

【上村】リーダーたちの意識変革が進んでいることは素晴らしいですが、会社のカルチャーを変えるのはそう簡単ではありません。まずは受講者がそれぞれの職場に戻って、短期間の学びで人は変われるということのロールモデルとなり、その学びはいつ始めても遅くないこと、さらに当社には学びの機会がたくさんあることを気づかせるような存在になってほしい。会社としてもその姿勢をサポートしたいと考えています。

東 由紀(ひがし・ゆき)
人財開発部長
ニューヨーク州立大学卒業後、Bloomberg L.P.社、リーマンブラザーズ証券会社を経て、野村證券のグローバル・リサーチ部門に移籍。社内公募で人事部に異動すると、グローバル部門の人材開発やダイバーシティ&インクルーションを統括。その後アクセンチュア社を経て、2020年2月のコカ・コーラ ボトラーズジャパン入社時より現職。

──今後のコカ・コーラ ボトラーズジャパンの動向に注視する読者にメッセージをお願いします。

【東】「変化」は脳科学的にも不安を与えることがわかっているようです。ただ、その不安を乗り越えて新しいことを学び、幾度かの失敗があったとしても挑戦を続けて成功したら、変化すること自体が楽しくなるはず。変化が楽しいと伝わるプログラムを多く用意して、今後も変革リーダーをどんどん輩出していきたいと思います。

【上村】世界的ブランド名に隠れがちですが、当社は地域のグループの集まりという側面もあり、地元で働くことを望んだ人も多い会社です。ただ、そういった人たちの中から、自発的な学びを通して英語やデジタル技術を身につけたというような変革リーダーが続々と登場しています。こうしたリーダーは、いつの間にか世界の第一線から後れを取りつつある日本の社会全体にも「やればできる」という前向きなインパクトを与えてくれるでしょう。今までとは違うやり方で、今まで以上に「ハッピーなひとときをお届けし、価値を創造する」。この当社のミッションに向かって、会社を挙げて本気で取り組んでいく所存です。