気さくな「いい人」タイプが陥りやすいパターン

部下からの信頼を損なう上司に多い、もうひとつのパターンをご紹介しましょう。

「うっかり安請け合い」で発言に重みがなくなり、部下に糾弾されてしまうというケースで、気さくでフレンドリーな「いい人」ほど陥りやすい失敗です。

Cさんは、おおらかで後輩に対しても高圧的になったりすることのない紳士的な人物です。陽気な性格でチーム内でも慕われていましたが、課長になると評価が一転。「人はいいんだけど、仕事はできない人」というレッテルを貼られるようになってしまいました。

きっかけとなったのは、部下のDさんとのやりとりです。「課長に頼まれたこの報告資料ですが、これを基に最終的な提案資料ができるのはいつごろでしょうか?」と聞いてきたDさんに対して、Cさんは「今週中にはなんとか仕上げられると思うよ」と気楽に答えたそうです。すると、Dさんは「では、月曜日にクライアントにアポをとるので、金曜中でお願いしますね!」と強めの口調で念押し。Dさんが大きな声で確認したので、部内のメンバーもそのやりとりを聞いていました。

そして金曜日の夕方。Dさんに「提案資料はできましたか?」と声をかけられたC課長は、「しまった……!」と頭を叩きます。「申し訳ない、急な仕事が入ってそっちにかかりきりで。まだできていないんだ」と謝ると、Dさんは激昂。

「こちらはあなたとの約束を信用して先方とのアポを取り付けたのに、どうなってるんですか? 業績を上げろと言いながら、足を引っ張っているのはあなたじゃないですか!」

この一件以来、DさんとCさんは立場逆転。Dさんはこのあとも、Cさんの仕事に対して期限を確認し、言質をとるようになります。しまいにはC課長の都合を無視して、「この日までにはお願いします!」というように、自分の都合で期限を決めるように。いつもチームのみんながいる前で約束をさせ、約束が守られないと「C課長は本当にいい加減だな!」と陰口を叩くようになったのです。

弱みを握ろうと狙ってくる部下への対処法

Dさんのように、上司の弱みを握ることで優位に立とうとするタイプの人はいくらでもいます。Cさんの性格をわかっていて、「言質を取り続ければいつか約束を守れないことが出てくるはずだ」と踏んでいたのかもしれません。

こういう部下に対しては、「守れない約束はしない」ことを徹底することです。

ほかのメンバーには「ちょっと立て込んでいて、少し遅れてしまう」と言えば済むことでも、弱みを握ろうと狙っている部下には通用しません。見通しが立たないときには「今はちょっと約束できないから、はっきりわかった時点で伝えますね」とかわしましょう。

また、自分自身も、本当に急ぎの仕事でない限り、「これは今週中に絶対仕上げて!」などと、必要以上に期限を迫るようなことは言わないことです。人に求めることは、自分ができていなければなりません。上司風を吹かせて部下に必要以上に厳しい指示や指導をしていると、その厳しさはいつか自分に跳ね返ってくるかもしれないことを肝に銘じましょう。

見波 利幸(みなみ・としゆき)
日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事

1961年生まれ。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーなどを経て、98年に野村総合研究所に入社。主席研究員としてメンタルヘルスの研究調査、研修開発に携わり、日本のメンタルヘルス研修の草分けとして活躍。2015年より日本メンタルヘルス講師認定協会の代表理事に就任。20年かけて開発した2日間の「ヒューマンスキルを強化するマネジメント研修」は大企業を中心に絶大な支持を得ている。著書に『心が折れる職場』『上司が壊す職場』(以上、日経プレミアシリーズ)など多数。