現場ではハツラツと仕事をしていたのに、昇進した途端に精彩を欠いてしまった。こんな人物に心当たりはないだろうか? メンタルヘルスケアの専門家、見波利幸さんは「決して能力不足ではないのに、人間関係の不和から思わぬ落とし穴にはまってしまう人が少なくない」という――。
オフィスの会議室で一人、頭を抱えてうつむく女性
写真=iStock.com/Martin Barraud
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上司との戦いを楽しむ「戦闘民族的MBA部下」の手法

上司と部下とが対立していては、円滑な業務遂行は望めません。些細なことでもぶつかり合いが起こったり、十分な情報共有ができずにトラブルの原因になったりと、職場の人間関係の問題のなかでも、業績への影響が大きいものだといえるでしょう。

しかし、部下が突如、上司に反旗を翻し、指示にまったく従わなくなってしまうということも実は珍しくありません。特に優秀な部下、自分に自信のある部下ほど、こうした傾向が強いようです。

実際に私がカウンセリングした企業での例をご紹介しましょう。

営業部のAさんは、これまで携わったプロジェクトの成功などを評価され、30代半ばで部長に昇進。20人のチームを率いる立場になりました。プレイングマネージャーとして自身も大きなプロジェクトを動かしながら、部下の立場に立ったマネジメントをしていこうと意気込んでいた矢先、思わぬ抵抗にあってしまいます。

2年後輩のBさんから、ことあるごとに論戦をふっかけられるようになったのです。Bさんは働きながらMBAを取得した勉強家で、仕事への熱意も高い人物です。そんなBさんから見ると、Aさんは「現場では活躍できるかもしれないが、上に立つにはふさわしくない。マネジメントのなんたるかをちっともわかっていない」と映ったようです。Aさんの指示に対しては必ず論理的背景の説明を求めるようになり、少しでも破綻があればすかさずそこを攻撃。Bさんにやり込められるAさんの姿を部内に印象づけることで、Aさんへの信頼を少しずつ削っていったのです。

その姿は、まさに戦いそのものを楽しむ戦闘民族さながら。気の休まることのないAさんは、すっかり自信喪失に追い込まれてしまいました。

公然と上司をこき下ろすケース、会議室で責めるケース

Bさんの敵対行動の裏にあるのは、Aさんの昇進に対する納得感のなさです。「Aさんはマネージャーとしてのスキルも知識も不足しているのに、なぜ自分が能力不足の人物から指示を受けなければいけないのか」という思考が、自身の過激な行動を正当化しているのでしょう。

こうした思いを抱える部下は少なくないようで、多くの企業から同様の相談が寄せられています。Bさんのように部内のメンバーが見ているなかで公然と上司をこき下ろすケースもあれば、会議室などに呼び出してチクチクと責め立てるというケースも。上司を追い詰める手法はさまざまですが、共通するのは「そこは自分のポストなのに!」という屈折した思いです。心の奥には、「自分ならばAよりも成果が出せるのに」という嫉妬心が隠れているのです。