上司との戦いを楽しむ「戦闘民族的MBA部下」の手法
上司と部下とが対立していては、円滑な業務遂行は望めません。些細なことでもぶつかり合いが起こったり、十分な情報共有ができずにトラブルの原因になったりと、職場の人間関係の問題のなかでも、業績への影響が大きいものだといえるでしょう。
しかし、部下が突如、上司に反旗を翻し、指示にまったく従わなくなってしまうということも実は珍しくありません。特に優秀な部下、自分に自信のある部下ほど、こうした傾向が強いようです。
実際に私がカウンセリングした企業での例をご紹介しましょう。
営業部のAさんは、これまで携わったプロジェクトの成功などを評価され、30代半ばで部長に昇進。20人のチームを率いる立場になりました。プレイングマネージャーとして自身も大きなプロジェクトを動かしながら、部下の立場に立ったマネジメントをしていこうと意気込んでいた矢先、思わぬ抵抗にあってしまいます。
2年後輩のBさんから、ことあるごとに論戦をふっかけられるようになったのです。Bさんは働きながらMBAを取得した勉強家で、仕事への熱意も高い人物です。そんなBさんから見ると、Aさんは「現場では活躍できるかもしれないが、上に立つにはふさわしくない。マネジメントのなんたるかをちっともわかっていない」と映ったようです。Aさんの指示に対しては必ず論理的背景の説明を求めるようになり、少しでも破綻があればすかさずそこを攻撃。Bさんにやり込められるAさんの姿を部内に印象づけることで、Aさんへの信頼を少しずつ削っていったのです。
その姿は、まさに戦いそのものを楽しむ戦闘民族さながら。気の休まることのないAさんは、すっかり自信喪失に追い込まれてしまいました。
公然と上司をこき下ろすケース、会議室で責めるケース
Bさんの敵対行動の裏にあるのは、Aさんの昇進に対する納得感のなさです。「Aさんはマネージャーとしてのスキルも知識も不足しているのに、なぜ自分が能力不足の人物から指示を受けなければいけないのか」という思考が、自身の過激な行動を正当化しているのでしょう。
こうした思いを抱える部下は少なくないようで、多くの企業から同様の相談が寄せられています。Bさんのように部内のメンバーが見ているなかで公然と上司をこき下ろすケースもあれば、会議室などに呼び出してチクチクと責め立てるというケースも。上司を追い詰める手法はさまざまですが、共通するのは「そこは自分のポストなのに!」という屈折した思いです。心の奥には、「自分ならばAよりも成果が出せるのに」という嫉妬心が隠れているのです。
部下の反感を買う言動をしていないか
もちろん、いくら知識が豊富でも、一般的な理論がそのまま現場に当てはまるとは限りません。学歴や資格などのスペックだけでは、その人の本当の能力はわからないものです。部下から「能力不足では?」と暗に責められたとしても、そのことだけで自分を卑下する必要はありません。
ただ、無意識のうちに部下の反感を買う言動をしていないか、という点については、ぜひ振り返って自省したいものだと思います。
「これからは私の方法に従ってもらいます」
「どんどん改革を進めていくので、私のやり方についてきてください!」
リーダーシップを発揮しようとして、こんな発言をしている人は要注意です。一方的な指示は自分流の押し付けとうつり、論理的に考える部下からの反発を招きかねません。
指示やサポートは合理的な根拠に基づいて行い、きちんと説明をすること。たとえ自分のなかでは筋道が通っていたとしても、相手に伝わっていなければ意味がありません。気心が知れている同僚や部下であっても「このくらい言わなくても伝わるだろう」という思い込みは危険です。
「敵」の本丸を攻略するのが、いちばんの近道
部下からの理不尽な「逆パワハラ」でチーム内に不和が生まれてしまったとしたら、上司の立場にある人はどう対応したらいいでしょうか。
まずは、自身の言動を振り返り、いかにも「管理職然」とした一方的な指示になっていないかをチェックします。
その上で、部下の気持ちを取り戻すための策を打ちましょう。ポイントは、反上司の旗を振っている人物にアプローチすることです。さきほどの例ならば、Bさんにアタックし、部内をまとめなおすために力を貸してほしいとお願いするのです。
「Bさんにはチームをまとめるリーダーシップがありますよね。みんなも、私の言うことはいまひとつピンとこないようですが、Bさんが言うとすぐに動いていて、いつも感心しています。今回のプロジェクトを成功させるためには、あなたのようにチームメンバーの信頼が厚い人材が必要です。ぜひ協力してくれませんか?」
こんなふうに相手を認め、協力を仰ぐという姿勢を見せれば、部下もいつものように攻撃しづらくなるでしょう。人は基本的に、自分を尊重し、敬ってくれる人を否定することは難しいものです。
気さくな「いい人」タイプが陥りやすいパターン
部下からの信頼を損なう上司に多い、もうひとつのパターンをご紹介しましょう。
「うっかり安請け合い」で発言に重みがなくなり、部下に糾弾されてしまうというケースで、気さくでフレンドリーな「いい人」ほど陥りやすい失敗です。
Cさんは、おおらかで後輩に対しても高圧的になったりすることのない紳士的な人物です。陽気な性格でチーム内でも慕われていましたが、課長になると評価が一転。「人はいいんだけど、仕事はできない人」というレッテルを貼られるようになってしまいました。
きっかけとなったのは、部下のDさんとのやりとりです。「課長に頼まれたこの報告資料ですが、これを基に最終的な提案資料ができるのはいつごろでしょうか?」と聞いてきたDさんに対して、Cさんは「今週中にはなんとか仕上げられると思うよ」と気楽に答えたそうです。すると、Dさんは「では、月曜日にクライアントにアポをとるので、金曜中でお願いしますね!」と強めの口調で念押し。Dさんが大きな声で確認したので、部内のメンバーもそのやりとりを聞いていました。
そして金曜日の夕方。Dさんに「提案資料はできましたか?」と声をかけられたC課長は、「しまった……!」と頭を叩きます。「申し訳ない、急な仕事が入ってそっちにかかりきりで。まだできていないんだ」と謝ると、Dさんは激昂。
「こちらはあなたとの約束を信用して先方とのアポを取り付けたのに、どうなってるんですか? 業績を上げろと言いながら、足を引っ張っているのはあなたじゃないですか!」
この一件以来、DさんとCさんは立場逆転。Dさんはこのあとも、Cさんの仕事に対して期限を確認し、言質をとるようになります。しまいにはC課長の都合を無視して、「この日までにはお願いします!」というように、自分の都合で期限を決めるように。いつもチームのみんながいる前で約束をさせ、約束が守られないと「C課長は本当にいい加減だな!」と陰口を叩くようになったのです。
弱みを握ろうと狙ってくる部下への対処法
Dさんのように、上司の弱みを握ることで優位に立とうとするタイプの人はいくらでもいます。Cさんの性格をわかっていて、「言質を取り続ければいつか約束を守れないことが出てくるはずだ」と踏んでいたのかもしれません。
こういう部下に対しては、「守れない約束はしない」ことを徹底することです。
ほかのメンバーには「ちょっと立て込んでいて、少し遅れてしまう」と言えば済むことでも、弱みを握ろうと狙っている部下には通用しません。見通しが立たないときには「今はちょっと約束できないから、はっきりわかった時点で伝えますね」とかわしましょう。
また、自分自身も、本当に急ぎの仕事でない限り、「これは今週中に絶対仕上げて!」などと、必要以上に期限を迫るようなことは言わないことです。人に求めることは、自分ができていなければなりません。上司風を吹かせて部下に必要以上に厳しい指示や指導をしていると、その厳しさはいつか自分に跳ね返ってくるかもしれないことを肝に銘じましょう。