学生たちの最大の勘違い
従来と大きく異なるのは給与制度。育成による能力の伸長度合いを評価して給与が上がる「能力主義賃金」から職務に必要なスキルを持っているかで任用する「職務給」に変わったことだ。能力主義賃金は、身につけた能力はよほどのことがなければ落ちることがないので給与が下がることはなく、年功的運用になりやすい。それに対して職務給は求められる職責を果たしていれば給与は維持されるが、職責を果たせない、あるいは会社の都合で職務がなくなれば給与ダウンも発生する厳しい仕組みだ。
ここまで見るとジョブ型導入企業でも、必ずしも転勤など異動がないわけではなく、ジョブ型の魅力はさほどないように思えるが、最大の誤解は「職務記述書(ジョブディスクリプション)」にある。つまりジョブディスクリプションに書き込まれた仕事以外はしなくてもよい、誰とも協業することなく自分の裁量で自己完結型の仕事ができると勘違いをしている。
非常に大雑把な日本の職務記述書
実態は大きく異なる。日本企業のジョブディスクリプションは細かく記述されているわけではなく、どちらかといえば大括りの内容だ。ジョブ型人事制度を導入した大手精密機器メーカーの人事担当者はこう語る。
「細かく定義していません。なぜなら詳細に作成しても組織変更が行われるたびに書き換える必要があり、メンテナンスも大変です。期待する役割や成果、職務遂行に必要な知識・経験・能力などを包括的に記載しているだけです。当社に限らず他の大手企業でも職務記述書を細かく書いているところは少なく、せいぜい3~4行のジョブサマリーを書いているだけであり、包括的に書くことで運用を柔軟にしています」
つまりジョブ型だから職務を明確にしようと精緻な職務記述書を作成すると、組織改変などによる職務の変更や異動などの組織運営に支障を来し、回せなくなってしまうということだ。
また同社の人事評価項目には、「結束」(チームとして一丸になることで、最大の力を発揮する)や対人スキルなども存在し、チームワーク力も重要な要素にしている。
具体的に示そう。ジョブ型を導入したある大手企業の人事企画課長のジョブディスクリプションでは、職務内容は以下のようになっている。
・全社的な人材マネジメント政策や制度に関する企画・運用業務
・各部門の人材マネジメントにおける人材エンゲージメント戦略の立案・支援・コンサルティング
そして職務に必要な知識では「人材戦略や人事制度など(採用・異動・評価・人材育成、人的資源管理・労務管理等)に関する全般的知識」と、実に大雑把な内容だ。
また、必要な対人スキルとして「他部門も含めて信頼関係を構築し、協力、協働する。他社を動機づけ、影響力を発揮し、リードする」と、これまた抽象的な内容に終始している。