叱ると気持ちよくなってしまう

「叱る」という行動は多くの場合、叱られた人の回避行動を引き出します。もっと簡単に言うなら、「苦痛から逃げよう」とする行動です。

具体的には、申し訳なさそうな顔をして「ごめんなさい! もうしません‼」と謝ったり、「わかりました! すぐやります‼」と返事をしてすぐに行動することです。そうすることで「反省しているみたいだし、今回は大目に見ます」とか、「まあ、しかたないね。次から気をつけなさい」などと言って、叱ることをやめてくれる可能性が高くなるからです。

これらのことを「叱る人」の視点で考えてみましょう。

叱る人から見ると、自分の行動が、相手の望ましい行動を生み出していると感じる体験です。そのため、この状況は叱る側に強い充足感を与えます。

「叱る」に限らず、「自分の行為には影響力がある」「自分が行動することで、何かよいことが起きる」といった感覚は、人間にとってとても心地よいことで、次の新たな行動のモチベーションになるからです。叱る人にとっては「正しい行動」「あるべき姿」が即座に目の前に現れているのです。そのため、相手の行動が単なる回避行動でしかないことに叱る人が気づくのは、とても難しいでしょう。心理学の言葉で、自己効力感とも呼ばれるこの感情が、叱る人が受け取るごほうびの一つです。

「処罰感情の充足」というごほうび

さらに、人を「叱る」に駆り立てる強い報酬があります。

それは処罰感情の充足です。処罰行動は脳内の報酬系回路を活性化させる、という研究結果があります。そしてそれはきっと「罰」を与えるときだけではありません。同じようにネガティブ感情を用いる「叱る」でも同様のことが起こる可能性が極めて高いでしょう。つまり、「相手が悪い」と思っているかぎり、人は「もっと叱りたい」という欲求を感じるようになるのです。

叱る側は、「叱られる人」に何か問題があると思うから叱るのです。多くの場合で「叱られて当然の理由がある」「叱られるようなことをしたから叱っている」と思っているでしょう。つまり「叱る」には、処罰感情の充足というごほうびが常について回るのです。このことは「叱る」とうまくつきあっていくために、絶対に知っておかなくてはいけない知識です。

息子を叱る母親
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