「叱る」は長期化、慢性化、日常化する

例えば会話をしているときに、聞き手のうなずきの頻度を変化させることで話し手の発言量をコントロールできることが知られています。発言に対して頻繁にうなずくと話し手の発言量が増え、逆にうなずきをなくすと発言量が減る傾向があるのです。この場合、聞き手のうなずきは話し手にとっての「ごほうび」の役割を果たしていると考えられます。

村中直人『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)
村中直人『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)

興味深いことに、話し手は自分の発言量が相手のうなずきの量に影響を受けていることに、ほとんどの場合まったく気づきません。ですが、発言量を測定すると明確な影響がみられるのです。行動の直後に起こることが、その人のその後の行動に与える影響が決して小さくないことがわかるかと思います。

「叱る」に話を戻しましょう。人が誰かを「叱る」と、多くの場合そこに「自己効力感」や「処罰感情の充足」と呼ばれるようなごほうびがついてきます。そうなると人は、無意識のうちにどんどん叱る行動を増やしてしまうのです。

「叱る」ことがある種の快感につながるということは、本来的な目的が達成されていない状況が続いていたとしても、ずっと叱り続けてしまう悪循環におちいりやすいことを意味しています。

例えば「子どもが自発的に部屋を片付ける」という未来を望んでいる親がいるとしましょう。どれだけ叱っても、まったく子どもの学びを促進しておらず、何も問題が解決できていない状況が続いています。叱った直後だけ子どもは片付けをしぶしぶ行い、いつまでたっても自発的に片付けようとはしません。そんな中でも、何度も繰り返し叱る状態が続くことになるのです。そしてその結果、「叱る」が長期化し、慢性化し、日常化してしまいます。

村中 直人(むらなか・なおと)
臨床心理士、公認心理師

1977年、大阪生まれ。公的機関での心理相談員やスクールカウンセラーなど主に教育分野での勤務ののち、子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、発達障害、聴覚障害、不登校など特別なニーズのある子どもたちと保護者の支援を行う。現在は人の神経学的な多様性(ニューロダイバーシティ)に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動する。『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國書店)、『ニューロダイバーシティの教科書』(金子書房)など、共著・解説書も多数。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理、Neurodiversity at Work 株式会社代表取締役。