「勧善懲悪」が好まれるのと同じメカニズム

処罰感情の充足による快感が人の行動に与える影響は決して小さなものではありません。いつの時代も、勧善懲悪の物語は人気のエンターテインメントとして親しまれてきました。そうした物語では、悪人は明確に悪人らしく描かれ、聴衆の「罰を与えられて当然だ」という気持ちを駆り立てます。そして物語の最後に、悪人に罰が与えられ懲らしめられる流れになって一件落着するのが定番となっています。

こういった勧善懲悪のお話はまさに、処罰感情の充足が人に与える快感をうまく活用したエンターテインメントだと言えるでしょう。かつて古代ローマでは、犯罪者が処刑されたり猛獣と戦ったりする姿を見ることが、市民の娯楽であったといわれています。その人気は絶大で、そのために大きな観覧施設(コロッセオ)まで建設されたことは有名です。残酷さの程度こそ違いますが、起こっていることのメカニズムは勧善懲悪の物語が好まれるのと基本的に同じです。つまり、何かのきっかけで現代版のコロッセオが生み出されたとしても、なんら不思議はないのです。

行動が無意識レベルで変化する

人間も含め動物には、行動の直後になんらかの「報酬」が与えられると、その後その行動の頻度が高くなるというメカニズムが備わっています(このことを専門用語で「強化学習」といいます)。つまり、人は行動にごほうびが結びつくことで、その行動をもっと頻繁にするように学習していくのです。

このメカニズムによる行動の変化は、単純なようで実は人間の行動パターンに無視できない大きな影響力を持っています。そう言われてもピンとこない人もいるでしょう。「私はごほうびなんかに簡単に左右されない」と思われるかもしれません。ですが、そうではないのです。このメカニズムは、多くの場合、本人も気づかない無意識レベルで行動を変化させています。