消化活動をストップさせる

大沢氏も「脳も内臓の一部です。断食をすることで頭をスッキリさせようと訪れる方は“働き方改革”が推進され始めた頃から増えています」と話す。

そして、コロナ禍による業務のテレワーク化によっても、その需要に拍車がかかっている。やすらぎの里では2022年2月にテレワーク用の個室を導入。前出の男性のほかに、医療法人の理事長、企業の社外取締役や監査役なども宿泊していたが、彼らは空いた時間は常に自分の部屋で仕事をしていた。

ここで当館の料金についても触れておきたい。私が体験した週末プラン(3泊4日)は4万4880円~。人気の1週間プラン(6泊7日)は9万9000円~と決して安価ではない。現にテレワークで訪れている人にはやはり経営者層が多い。しかし、ダイエット目的で来ている主婦やOLの姿もある。家計を圧迫しかねない料金ではあるが、そこまでして来る理由は何だろうか。こちらも年に2回のペースで訪れるという専業主婦に聞いた。

「子どもが大学生になったことを機に、やすらぎの里に通い始めました。それまでは自分のことなんて二の次で子どもがすべてといった生活でしたが、時間に余裕ができたのでこれからは自分を見つめてみようと思ったんです。断食もヨガも瞑想も、外へ向けたエネルギーの発散ではなく自分の内へ向けたエネルギーの放出ですから」

私もそうであったが、そもそもエネルギーとは「外へ向けて発散するもの」いうのが、普通の発想ではないだろうか。そう考えると、自分の内に向かってエネルギーを放出する場面というのは日常を振り返ってみても思い当たらず、それを意識的に実行できるだけでも非常に貴重な時間であるように思う。

もちろん効果は脳だけではなく内臓にも表れる。大沢氏は初日の面談時、「消化活動をストップさせる」と話していたが、それにより何が起こるのか。

「腸の働きというのは消化だけではありません。消化したものを体内に吸収し、不要なものは放出しなければいけない。断食中はそれらの働きがすべて止まるわけですから、内臓が休まり、本来の働きが蘇る。その状態でヨガや運動をすることで、さらに内臓の働きが活発になるのです」

2日目の朝食は「人参ジュース」。夕食は「レンコンのすり流しお味噌汁」であった。さすがに空腹感に襲われ、全身に力が入らず、歩くのもやっとである。風呂で長湯をしたら立ちくらみで倒れそうになった。そしてとにかく頭が痛い。この日はほとんど眠ることができず、翌朝のトレイルウォークは修行の様相を呈していたが、そんな状態になっているのは自分だけで、周りはみんなケロッとしている。