同質的集団の怖さは「進化しない」こと

【白河】男性ばかりのベンチの中に女性を入れていくわけですね。同質的集団は、それまでいなかったタイプの人が3割程度に増えると決定が変わっていくと言われますが、ご自身がそれを実感されたのはいつ頃でしょうか。

【山口】2005年ごろからです。女性ということではありませんが、お客様のグローバル化支援案件が増加するとともに外国籍の社員が増え、主要ポジションにも就き始めました。当初は背景や価値観の違いから大変な部分もありましたが、きちんと対話することで互いの理解が進み、アンコンシャスバイアスも解けていきました。お互いを理解し合うには相応の努力と時間がかかりますが、やはり違う価値観の人と一緒に仕事をすると、今までになかった新しいものが生まれるという楽しさがあるんですね。この過程を体験してからは、以前にも増してD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の重要性を実感するようになりました。

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫さんと少子化ジャーナリストの白河桃子氏
撮影=遠藤素子

【白河】多様性のメリットですね。逆に、同質的集団のままでいるとどんなリスクがあるとお考えですか?

【山口】何よりも怖いのは、進化しなくなる、成長しなくなること、新しいアイデアが出てこなくなることです。また、既存の延長線上でしか判断できなくなることもあると思います。私もそうですが、「同質でいること」に流されがちですので、日々それと戦っています。

【白河】同質的集団は進化しない、成長しない。これは大きなキーワードですね。御社では、管理職になった人に対してどんなサポートをされていますか?

【山口】男女ともにメンタリングやコーチングなどのサポートを用意して、何かあれば気軽に相談できるようにしています。今、当社は文化を変えようとしているところでして、誰かが「できない」と言ったら、「なぜできないのか」ではなく「どうすればできるようになるか」を聞くようにしています。マネジメント層の一番の役割は社員のサポートです。サポートもアドバイスも求められないようでは存在価値がない。それは役員も、もちろん私も同じです。

「外資系だからできる」への反論

【白河】最後に、御社の女性活躍施策を「外資系だからできるのでは」と感じる人もいるかと思います。どんなアドバイスを送られますか?

【山口】外資だから早くから取り組んできたことは確かです。ただし、それを実行するのは私たち日本人でしたし、日本という環境の中で、常に、社会、企業、自分自身の考えの壁にぶつかりながら、取り組んできています。重要なことは、諦めず変化を継続することと、もう一点は、「アポイントメントのイノベーション」という考え方を大事にしています。物事を過去の延長線上で決めない、それまでの常識にとらわれない、ということですね。そして一度決めたら、それがうまく進むように徹底的にサポートします。

例えば、男性管理職の後任として女性を昇格させたとします。その人が前任者と同じことができなくても、私たちは「できないこと」ではなく「できていること」に目を向けます。皆一人ひとり違いますし、求められる仕事も時代や環境とともに変化していくわけですから、前任者と同じになろうとする必要はありません。逆にその人だからこそできることも沢山あります。それを大事にしようと。そうした意識を共有しながら、D&Iをさらに推進していきたいと思います。

【白河】人は一人ひとり違うし、管理職像も違います。それこそが本当のD&Iですね。

構成=辻村洋子

山口 明夫(やまぐち・あきお)
日本IBM 代表取締役社長

1964年、和歌山県生まれ。87年、日本IBMに入社し、エンジニアとしてシステム開発・保守に携わる。その後、社長室・経営企画、テクニカルセールス本部長、米国IBM役員補佐などを歴任。取締役専務執行役員、グローバル・ビジネス・サービス事業本部長などを経て、2019年より現職。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。