顧客との大喧嘩で学んだ“商売に必要なこと”

新人時代は大阪支店へ配属され、量販店営業を担当。食品メーカーの営業は店頭で商品を陳列する力仕事が多く、当時は女性も少なかった時代だ。東京で生まれ育った久森さんは、関西弁が飛び交う現場にも圧倒される。関西で商売に厳しいといわれる卸店があり、そこでみっちり教えを受けたという。

「私たちは卸店を通して商品を販売していたので、卸店の担当者と一緒にス―パーへ商談に行くというスタイルでした。私が一緒に仕事をしていた方は仕事熱心で、取引先にとってどんな提案がいいのかということを非常によく考えている方だったので、メーカーに対して高い要望をされます。時には『もっと社内を説得してこい!』と怒鳴られることも。毎日緊張しながら同行していました」

遠方の取引先へ車で出かけると慣れない運転で遅刻したり、資料で誤った情報を出してしまったり、失敗する度に叱られる。歯に衣着せぬ物言いは怖くもあったが、ストレートに言われることで奮起するきっかけになった。

「逆に胸がスカッとして、ちゃんと見てくれているのだと信頼できたのです。私もきちんと自分の意見を伝えなければと思い、電話で『これは違います』とはっきり勇気をもって言ったことがありました。すると言い合いになり喧嘩のようになって、電話を切った途端に号泣してしまい……。けれどその一件があった後、相手の方は新人の私を認めてくれるようになった。きちんとストレートに伝え合うことは、商売にとってすごく大事なことだと教えられましたね」

社内の声VS消費者の声

新人の頃はとにかく店頭に立つようにといわれ、店頭で試飲販売する機会も多かった。すると「いつも買ってます」「良い商品ですね」と声をかけられたり、「カゴメさん、世界一!」と励まされたり。その度に「この会社に入って良かった」と思えた。お客さまの声を直接聞けたことは、後の仕事に活かされていく。

4年間の大阪勤務を経て、東京本社へ。念願の商品企画の仕事についたのは入社7年目だった。久森さんは食品グループでトマト調味料を担当することになった。定番商品にはトマトケチャップやトマトソースがあるが、「トマトをベースに食卓を変えよう」というのがチームの課題に。トマトの炒め物や煮込み料理、ポン酢などさまざまなアイデアが出る中で、初めて企画したのが「トマト鍋」だ。

「毎日の食卓に出せるものがいいと考えたのです。子育てするお母さんは子どもに野菜を食べてもらいたいと思っています。お鍋には野菜をたくさん入れるので登場頻度が高くなるんじゃないか、では子どもが食べてくれる鍋はどういう味なのだろうと話し合い、トマトケチャップの味なら子どもは好きだよねと意見がまとまった。そこで鍋のスープをトマトケチャップの味にしようと決まったのです」

チームの中では、子どもが好きなソーセージを入れよう、最後に卵を溶いたらオムライスになるよね、と次々にアイデアが出てくる。当初はトマトケチャップの味など甘くてあり得ないと、社内で反対の声もあったが、消費者調査をすると好評で商品化が決まる。「甘熟トマト鍋スープ」は発売とともに、大ヒットした。

「売り上げの速報値が右肩上がりで伸びていくんですね。お客さまの声もウェブ上にあがり、『すごく美味しい』『子どもがよく食べてくれた』などというコメントを見ると嬉しくなる。こうやって食卓に届いてくのだと思うと、大きな喜びがありましたね」