脱成長こそおとぎ話だ
災害大国である日本は昔から深刻な水害に何度も見舞われてきた国だが、水害の被害額の対GDP比率や死者数は経済成長に伴って高度成長期以降、大幅に低下している(図表2)。経済成長とは、まさに人類の素晴らしいサクセスストーリーである。貧困をなくし、世界を豊かにしてきたのは経済成長であり、経済成長を可能にした資本主義である。経済成長を罵倒したところで温暖化問題は解決しないし、脱成長にすれば自然と調和して人類は幸福に暮らせるというのは全くのおとぎ話というしかない。
温暖化についてはまだわかっていないことも多いが、気候変動と闘うためにも革新的な資本主義経済が不可欠であることは間違いない。チェルノブイリ原発事故などを想起すれば容易に理解できるように、社会主義体制が温暖化対策に有効である可能性は極めて低い。社会主義体制は経済成長せず、国民を豊かにできないだけでなく、合理的な資源配分メカニズムが欠如しているため、環境にも最悪の影響を与える全くとるところのない体制である。
豊かになることを望み、自由なライフスタイルを楽しみたいと考えるのは人間の自然な本性である。経済成長は誰かが無理やり作り出したものではなく、人間の自由な経済活動を制約しなければ自然に生じてくる結果である。脱成長を強要しようとすれば、政府や共同体が生活に事細かに介入し、何をなすべきか命令する恐ろしい監視社会にならざるを得ない。人間自然な姿を否定すれば、待っているのは全体主義社会である。
早まって成功の鍵を捨ててはいけない
パニックになる必要はない。冷静に事実を検討すれば、人類のこれまでの歩みは間違っていなかったし、未来は希望に満ちていることがわかるはずである。私たちが唯一恐れるべきことは、根拠のない恐怖に惑わされて、これまで人類の成功の鍵だった資本主義と経済成長を捨ててしまうことである。
コロナ禍や気候変動といった人類の直面している課題を乗り越えるために、今ほど資本主義が必要とされているときはない。早まって資本主義を捨てることは、先人たちの築き上げてきた文明の遺産を捨て去ることである。人類のかけがえのない自由、民主主義、人権は、資本主義文明の産物である。