ところが、今「男らしさ」の定義が変わる節目にあり、家事や育児に積極的なことが男性の競争社会の中で優位になり始めています。例えば男性タレントの中には、フェミニンな振る舞いと家族愛を前面に出したキャラクターづくりで、タレントとしての価値を上げた人もいます。
とはいえ、一般社会において周囲や本人が望んでいるのは、一定程度競争をしながら、出世や仕事に支障がない範囲で家事・育児をするというレベルにとどまります。出世や仕事よりも家庭やプライベートを全面的に優先したいという男性はまだまだ許容されにくいことに変わりはないのです。
相対的に安定していても男性は圧倒的に不自由
夫婦間の性別役割分業の意識は、実のところ現在の日本社会においてもあまり変わっていません。主流だった、夫がサラリーマンの専業主婦世帯は、バブルがはじけてサラリーマンと扶養内パートの世帯になり、今はサラリーマンと時短勤務の会社員の妻で家計を支える構図に。収入の主体はあくまで男性であり、これは性別役割分業の3段階目のバージョンにすぎないと思えます。
その背景として、日本は労働市場における女性差別が強く、総合職と一般職の区別も相まっていまだにフルタイムで働いても男女比10対7の賃金格差(※)があります。なかには所得の高い女性や実力主義の企業勤めの女性もいますが、統計的に見てそうした人はほんの一握りであって、この賃金格差がある限り、男性がリードする構造は変わりにくいのです。
また、女性はモチベーションが低く管理職になりたがらないという話もあります。既存の女性管理職について人事担当者などに人となりを聞くと、「外見は女性だけど中身は男なんです」と冗談めかして言われたりしますが、それは女性のままでは社内で偉くなれないと暗に認めているだけ。独身でいるか、子育てを祖父母に丸投げしないと役職にはつけないということにほかなりません。男性は当たり前のように家庭を妻に任せるのに、女性はそこまでしないと男性と同等になれないのなら、出世しなくてよいと思うのは当然です。
一方で、女性は差別されているがゆえに比較的自由な側面もあります。会社を辞めて専業主婦になる、進学する、時短勤務で働き続けるなど選択肢はさまざまです。逆に男性はフルタイム労働をやめないのが前提であり、また多くがそう信じているはずです。男性のほうが相対的に安定はしているものの、そういう意味では圧倒的に選択肢が少ないことがわかります。
※出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概況」