真面目な人ほど矛盾を真に受けてしまう

2021年6月、改正育児・介護休業法が成立し、2022年度から男性の「出生時育休」が新設され、企業には育休取得意向の確認が義務づけられました。20年度の統計では男性の育休取得率は12.65%と飛躍的に増加していますが、まだまだ男性の育休が普及しづらい社会にあって、1つの起爆剤になるのではないかと期待されています。

家事・育児を担いたい男性が育休を取りやすくなる、世界一恵まれた給付制度と評される一方で、既述のとおり、日本社会には他の先進国に比べて男女の賃金格差がかなり大きいという問題もあります。フルタイム勤務でも妻側の収入は平均して夫の約7割しか得られないのですから、「夫は外で稼いでもらわないと困る」という女性の中の無意識のバイアスが働いても不思議ではありません。いくら社会保険料が免除され、休業前の8割の賃金が補償されても、育休中の収入が2割減になるのは耐えがたいという家庭もあるのです。

制度の普及には、社会構造上の矛盾を会社が福利厚生の部分でカバーして、所得補償を100%の水準にするといった取り組みも必要になってくるでしょう。そこは企業側と交渉する余地が十分に残されています。

こうした弱い立場の個人が企業社会を生き抜くには、会社の制度やルールを自分の都合のいいようにうまく利用するだけでなく、どう手を抜くかということを考えていくことも大事です。男なのだから仕事はある程度無限定にやって、家に帰ったら家事・育児をして、ちゃんと出世もして稼いで……の板挟みは正直つらいのです。どの評価を重視するのか、あるいは自分たちはどういう家族でありたいかを夫婦でよく話し合い納得できれば、社会構造上の矛盾もはね返せるのではないかと思います。

そして、どうしても悪い方向に進みそうになったときは逃げることも必要と覚えておきましょう。継続的に働いたり、持続的に家庭生活を営んだりするには逃げるすべも必要なのです。会社によっては裁量労働制を導入している、営業職は直行・直帰が許されているなど、さまざまなルールがあると思いますので、その範囲内で逃げ道を探すのも一考です。

今回、コロナ禍によってリモートワークが進み、子どもの成長を目の当たりにできる素晴らしさを感じた男性も多いかもしれません。これを、多様性を生かした働き方推進のチャンスにできるかどうか、今後の成り行きを見守りたいところです。

アンケートで見えた社内のアンコンシャスバイアス

構成=横山久美子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。