パパやママの立場を1カ月間擬似体験

【木下】仕事と育児の両立に関しては、御社独自の研修「なりキリンママ・パパプログラム」も大きな注目を集めました。導入の経緯や内容をお聞かせください。

【豊福】営業職女性の活躍推進を目指すプロジェクト「新世代エイジョカレッジ」で、当社のチームが「なりキリンママ」という研修を提案し、大賞を受賞したのがきっかけです。内容は、子どものいない従業員が営業ママになりきって時間制約のある働き方を徹底し、労働生産性を上げるというものでした。社内でも働き方の課題を解決するため、2019年から全社展開を始めました。

研修を受ける人は、擬似体験するシチュエーションを「育児」「親の介護」「パートナーの病気」の中から選び、時間の制約や突発事態に対応しながら1カ月間、仕事との両立を図ります。仕事のスケジュールにも影響が出るため、当初は抵抗の声も上がりました。

多かったのは「お客様がいるのに困る」というものです。確かにその通りですが、お客様にどうお伝えするか、プログラムのことを話すかどうかは本人に任せています。ただ、プログラムのことを話すと好意的な反応も多いようで、お客様が同じような課題を抱えていらっしゃる場合は無償でノウハウを提供したりもしています。

「仕事で忙しいのに」という声もありました。そこに対しては、今後自分やチームメンバーが両立問題に直面したときに、皆が余裕を持って対応できるよう、今のうちに予行演習をしておきましょうという伝え方をしました。

一方で、体験者からは「情報共有の意識が高まりチーム力向上につながった」、実際のパパやママからは「皆さんに自分事化してもらえて空気が変わった」という前向きな声もあり、やってみればできるものだという実感からか、男性育休の取得率も大きく上昇しました。

【木下】そのほかの課題として、転勤や休職についてはいかがですか?

【濱】2009年から順次、ボランティアや配偶者の転勤などを理由に休職できる制度、自己都合退職後5年以内に復帰できる制度、一定期間の転勤停止、育休明けに希望地域への復帰を実現する制度などを導入しているほか、在宅勤務制度も拡大しています。いずれも女性の課題や思いをもとに実現したものです。

【木下】キリンビールやホールディングスは時短勤務を取得できる期間が短いと伺っていますが、これはなぜでしょうか。

【濱】時短勤務については、当社ではお子さんが小学校3年生の学年末に達するまでの間、育休期間と合算して48カ月を上限に取得できます。育休は2歳に達するまで取得可能なので、時短勤務の期間は最大2~4年程度ということです。なぜ短いかというと、当社では「フルタイム勤務が基本」という考え方がベースになっているからです。

東京都中野区にあるキリンホールディングス株式会社の会議室から配信を行いました
撮影=田子芙蓉
東京都中野区にあるキリンホールディングス株式会社の会議室から配信を行いました